キムタツコラム⑯やりたいことが見つからない子どもたちへ

 

 国内有数の進学校、灘中学校・高等学校(兵庫県)の元英語教員で「夢をかなえる英単語ユメタン」シリーズや「東大英語基礎力マスター」シリーズなど数多くの有名参考書を手掛けている作家の木村達哉(キムタツ)さん。 「NPOおきなわ学びのネットワーク」 を立ち上げて沖縄の生徒の学びを支援しているなど、沖縄に縁深く活動しているキムタツさんに、教育に限らずさまざまな角度からコラムを書いてもらいます!

「やりたいこと」はそのうち見つかるものではない

 皆さん、こんにちは。木村達哉です。どうぞよろしくお願いします。相変わらず北海道から沖縄まで、特に僕の著作を使っている学校から講演や出張授業の依頼が絶えないのは嬉しい限りなのですが、北海道ではヒートテックを着て、翌日に沖縄では半袖でラジオ番組の収録をするという状況です。身体に気をつけて過ごします。皆さんもお気をつけください。

 さて、夏に佐敷中学校(南城市)で講演した際に生徒から出た質問に「やりたいことが見つからないが、どうしたらいいか」というのがありました。昨年、名護高校では「夢を見つけるにはどうしたいいと思うか」と質問されました。また、YouTubeチャンネルの「公式キムタツチャンネル」をやるようになって、今まで以上に多くの方々からメールを頂戴するようになりましたが、特に多いのが「やりたいことが見つからない」という子どもたちからの相談です。

 大人の皆さん、子どもからそういう質問をされたらどう答えますか。「そのうち見つかるよ」と言って話をはぐらかすのは良くありません。そのうち見つかるものではありません。まずいのは見つからないまま中学校に進み、高校に上がり、したいこともないのに勉強し、そのまま推薦かなにかで大学に進み、本当にその仕事がしたかったわけでもないのに就職して、ため息をつきながら毎日過ごしている人のなんと多いことか。それではつまらないと思いませんか。やりたいことは、そのうち見つかるものではありません。

たくさんの経験の中から見えてくる「やりたいこと」

 僕らが子どもの頃に比べると、今の子どもたちは経験値が低い気がしています。インターネットの普及によって、選ぶオプションは何百倍にも増えているにも関わらず、です。その原因の1つとして、小学生時代から塾に行く子どもが圧倒的に増えたことが挙げられます。また、遊びと言えばゲームというように、日常生活が画一化されたことも原因だと思います。もしかしたら新型コロナウィルスの蔓延も原因のひとつかもしれません。

 学校や塾で勉強することは大切です。しかし、それによって経験値が減ったのであれば、ほとんど意味がありません。なぜ英語を勉強するのか。どうして算数や数学は重要なのか。歴史の勉強が必要なのはなぜなのか。そういったことが、経験値が低いとわからないんです。英単語を覚えるのと同じぐらいたくさんの経験をしようとすべきで、その経験の中から「やりたいこと」が見えてくるのです。学校と塾と自宅だけを行き来し、勉強と部活しかしていない生徒はなかなかやりたいことが見つかりません。加えて、遊びと言えばゲーム…というのでは、あまりにも画一的です(部活やゲームが人生に直結するなら問題ありませんが)。

いろんな大人がいろんな“勉強”

 社会はいろんな種類の大人たちで溢れています。大谷翔平選手や宮城大弥選手のように野球を勉強した大人たちがいます。松山英樹選手や稲見萌寧選手のようにゴルフの勉強をした大人たちがいます。音楽や演劇を必死に勉強した大人たちがいます。YouTubeを立ち上げるとさまざまなことを勉強して発信している大人たちがいます。どの大人たちも、勉強していないと続きませんから、勉強はし続けなければなりません。学校の勉強なんかよりずっと大変です。

 さて、街に飛び出してみましょう。パンを焼くことを勉強している人が美味しいパンを提供しています。流通を勉強している人がサンエーやかねひでやリウボウを維持して僕たちの生活を便利にしてくれています。建築を勉強している人たちのお陰で、今日も新しい建物が完成しつつあります。美術館や博物館には作品を創った大人の作品が展示されていますし、それを人々に見てもらうために展示の方法を考えている人たちが働いています。銀行、空港、ホテル、水族館、動物園、テレビ局やラジオ局・・・いろんな大人たちが努力を、勉強を、し続けています。

 もっと遠くまで行ってみましょう。福岡、広島、大阪、名古屋、東京、富山、山形、北海道・・・いろんな場所にいろんな仕事があります。仕事を維持するために、みんな勉強に勉強を重ねています。クリエイティブな仕事をしている大人は格好良く見えますが、地味な仕事を反復している大人たちがいてくれるからこそ、僕たちの生活は維持できます。

 さらに遠くまで出かけましょう。僕が行ったのは真珠湾、台湾、北京、西安、上海、慶州、ソウル、シンガポール、パリ、ロンドン、タヒチ、ニューヨーク、ワシントンDC、あとはどこだったかな、いろんなところに日本にはない仕事があり、多くの大人たちが働いています。こんな場所にも人は住んでいるのかというところもあり、そういうところを訪れるだけでも自分の経験値を高めることが、そして視野を広げることが、できます。

「楽しい人生」に自分を“代入”

 もしも僕が自宅と職場を往復するだけの人生であれば、日本語と英語の両方で文章を書いた絵本を創って世界中の人たちに届けたいという夢を持ったでしょうか。ひーぷーさんとラジオ番組を持って、日本中の人たちに声を届けたいという思いを持つに至ったでしょうか。その点で言うと、確かに学校や塾の勉強は大切なのですが、それと同じぐらいいろんな大人たちを見て、そこに自分を代入する経験が必要なのです。

 パイロットに自分を代入してみる。ラジオやテレビのタレントやディレクターに自分を代入してみる。銀行員、ミュージシャン、画家、書店員、ショップ店員・・・いろんなオプションがあります。その中から、何だったら自分はわくわくしながら生きられるだろうと考えることです。何に向いているか? そんなことはまったくどうでもいいのです。そんなことを言ったら僕は教員に本当に向いていたのでしょうか。楽しいからやっていただけですよ。楽しくなければすぐに退職していたことでしょう。せっかく生まれてきたのです。楽しくない人生なんてまっぴらごめんです。

 どんなことをやるにしても、勉強するしかありません。勉強を通じて自分のレベルを上げないと、人生を楽しめないからです。スマホでゲームをしている人は楽しいかもしれませんが、そのゲームを創って世界中の人々に使ってもらえるクリエイターのほうが何百倍も楽しいはずです。そのためには勉強!勉強!勉強!なのです。

 やりたいことが見つからない子どもたちには、いろんなところへ行って、いろんな経験をしてくださいと言うようにしています。いろんな大人に自分を代入してみろと言っています。この大人はいいなと思ったら、その人の顔に自分の顔を代入することです。

挑戦と失敗をさせるのが大人の仕事

 最後に、親は子どもに駄目だししてはいけません。子どもたちにどんどんやってみろと言わねばならない大人が、危ないから、失敗するから、どうせ無理だから、そんなに甘くはないからと、子どもたちから経験と機会を奪います。そういう大人に出会った子どもは不幸です。そんな姿勢ではやりたいことを見つけることなど不可能だからです。「どうせ無理」を排除し、やりたいことにトライさせて失敗させることが大人の仕事です。そして大人たちも多くの経験をして、多くの失敗をし、でも人生を楽しみ、それを子どもたちに見せることが大事なのではないかと僕は考えています。

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木村 達哉

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作家、関西学院大学フェロー、新潟産業大学客員教授、NPOおきなわ学びのネットワーク理事。オリジン・コーポレーション所属。2021年3月まで灘中学校・高等学校教諭。奈良県出身。沖縄で愛犬さくらと一緒に年の3分の1ほどを過ごし、県内の学校や教育機関で英語授業や講演を行う。
趣味はゴルフ。そのわりに90を切ることができずに苦しんでいる。

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