ノーベル賞教授が1時間の会見で語ったコト OIST客員教授のスバンテ・ペーボ氏

 
ノーベル賞受賞の受け止めなどについて語るスバンテ・ペーボ氏=9月4日、ドイツ・ライプチヒの自宅(ZOOMのオンライン画像より)

 3日付けの発表でノーベル生理学・医学賞に輝いた古人類学の世界的権威であるスバンテ・ペーボ氏(67)=スウェーデン出身、ドイツ・マックスプランク進化人類学研究所所長=が4日、自身が客員教授を務める沖縄科学技術大学院大学(OIST=オイスト、恩納村)の記者会見にドイツ東部ライプチヒの自宅からオンラインで出席した。

 受賞の受け止め、現在注力する研究の内容、OISTの客員教授に就いた理由、後進へのメッセージ。多くの日本メディアから様々な質問が飛び、会見は当初の予定から30分延長された。約1時間にわたってペーボ氏が丁寧に語った言葉を詳報する。

一報は「ジョークかと思った」

 発表から一夜明け、現地時間の午前8時ごろから会見に臨んだペーボ氏。妻が子どもたちを学校に連れて行ったことで、急きょ参加が可能になったという。

 冒頭の挨拶の一言目は「圧倒されるような1日と半日を過ごしました」。さらに「長年研究を続けても成果が出ない研究もありますが、続けられたのはマックスプランク、OISTのおかげです。時間のかかるプロジェクトを支援してもらい、恵まれている」と感謝の言葉を続けた。

 2020年5月に客員教授に就き、OISTでの研究を決断した経緯を問われると、大きな理由に「科学的な環境です」と答えた。その上で「特筆すべき研究グループが集まっている。特に神経生物学の分野が素晴らしい。私たちはその専門家ではないので、連携して研究を進めるのに世界で最も良い場所の一つだと感じています」とOISTを高く評価した。来年の1月、3月には沖縄を訪れる予定だという。

 ノーベル賞受賞の一報を受けたのは、10歳の娘を学校に連れて行こうと自宅のドアから出た午前9時前だったという。初めはにわかに信じられなかった。「ジョークだろうと思った。研究グループの誰かがノーベル賞委員会の人のような声を出したんじゃないかと」。しかし、冗談でも嘘でもなかった。「これは本当に真面目な話ということで受け取りました。ただ、まだ完全に受け止め切れているわけではないですけど」と柔らかい笑みを浮かべた。

ネアンデルタール人のDNAが現生人類に継承

ネアンデルタール人と現生人類が交雑したことを示す時系図(国際科学技術財団のホームページより)

 ペーボ氏の業績は「絶滅した古代人類のゲノムと人類の進化に関する発見」。古代人であるネアンデルタール人は約4万年前に絶滅したため、現生人類であるホモ・サピエンスとの遺伝的繋がりは無いと考えられてきたが、ペーボ氏はその通念を覆した。

 古代人の遺骨に残っていたDNAを抽出し、高速かつ大量に塩基配列を解読できる「次世代シークエンサー」を活用して2010年に世界で初めてネアンデルタール人の細胞にある核DNAの全配列を解読したところ、現生人類にネアンデルタール人のDNAが一部受け継がれていることが判明。現生人類の祖先がネアンデルタール人と交雑していたことを突き止め、古人類学の発展に大きく貢献した。

 また、ロシアにあるデニソワ洞窟から出土した骨片のDNA配列を解析したところ、未知の人類であることが分かり「デニソワ人」と命名。デニソワ人のDNAも一部が現生人類に引き継がれており、ホモ・サピエンスと交雑していたことを明らかにした。

 さらに、ネアンデルタール人から受け継がれた遺伝子が新型コロナウイルスの重症化リスクに関わっていることについても専門雑誌で論文を発表。コロナ陽性者を対象に分析した結果、受け継いだ遺伝子によって重症化リスクが増減することが分かったという。

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