ノーベル賞教授が1時間の会見で語ったコト OIST客員教授のスバンテ・ペーボ氏
- 2022/10/5
- 国際
古代人と現生人類の違いを探究
現在の主な研究テーマは「現代人とネアンデルタール人、デニソワ人との違い」を突き止めることだ。OISTで自身が率いる研究チーム「ヒト進化ゲノミクスユニット」ではマウスに古代人のDNAを組み込む実験を行っており、長期間にわたって行動を記録することで、機能面や脳の発達などにおいてDNAがどのような影響をもたらすかを研究しているという。
「ネアンデルタール人、デニソワ人が絶滅したのは、より多くの現代人類に吸収されたということだと思います。ただ、そこで疑問になるのは現代人類の人口がなぜそこまで多かったのか。それは私たちの認知機能に関わっていると思っています。つまり、現代の人類が個々人としてネアンデルタール人より賢かったわけではなく、社会的な部分が影響しているのではないか」
さらに続けた。
「現在の人類はより大きな集団を作り上げていくために、お互いにコミュニケーションを取って情報を交換する。世代間でも情報を受け継いでいく。そういった点で(古代人との)違いがあったのではないかと思っています。現代人の特別さ、そしてネアンデルタール人、デニソワ人との違いは何かということを突き止めたいです」
沖縄県の八重瀬町で遺骨が見付かった約2万年前の人類とされる「港川人」についても「既に大規模に研究されているグループがいます。ぜひ手伝いたいとは思っていますが、進んでいる研究の中で素晴らしい結果が出てくるのではないかと期待しています」と語った。
若い世代へ「興味に従って進んでほしい」
自身は10代の頃に古代エジプトを中心とした考古学に興味を持った。大学以降は生物学、医学の道へ。その過程で古生物からDNAを取り出す技術があることを知り、思った。「昔に戻って(生物から)DNAを取り出し、配列を見れば、時間の経過とともにどう変わったのかを調べることができるんじゃないか」。持ち前の探究心で研究を続け、「私たちはどこから来たのか」という人類の壮大な疑問に対する一つの大きな成果を残した。
そういった経緯もあり、沖縄県民や若い世代へのメッセージを求められると、こう答えた。
「私が伝えたいことは、もし何をしようかとか、人生の進むべき方向を迷っているのであれば、本当に興味を持ってやりたいと思うことをやってほしいということです。好きでなければ上手くなることはないと思います。うまくいけば、それが一生の職業になるかもしれないし、素晴らしい成果、社会への貢献に繋がっていくかもしれません。興味、関心に従い、怖がらずに前に進んでほしいです」
顕著な功績を残してきたペーボ氏だが、以前は失敗も経験したという。古代人のDNA配列を明らかにしようとした時、初めに着手したのはエジプトのミイラだった。皮膚からDNAを抽出してバクテリアの中で増幅したが、「研究者、あるいはミイラを扱った人のDNAが混じってコンタミネーション(外来DNAが混じること)が起きていた」と目的を達することはできなかった。
しかしその失敗は今に繋がっているという。「研究自体が悪いものではなかったと思っています。結果として、いろいろな(実験の)方法が見つかって、それを乗り越えて功績に繋がったと思っています」と語った。
これまでの研究人生で最も心が躍った瞬間を聞かれると、「ミュンヘンで教授をしていた時、大学院生が1856年に見付かったネアンデルタール人の遺骨のDNA配列を見せてくれた時です。その時、初めて4万年前の古代人と現代人類のDNAに似ているところがあると分かった。その瞬間です」と嬉々として振り返った。