沖縄の人々に知ってもらいたい台湾情勢のリアル 在沖台湾代表の王瑞豊氏インタビュー

 
王瑞豊 台北駐日経済文化代表処那覇分処長

 「はいさい、我んねー王瑞豊んでぃいやびーん。みーしっちょーてぃ、うたびみそーり(私は王瑞豊と申します。どうぞお見知りおきください)。これでよいですか」
 初見の挨拶をうちなーぐちでと心掛けるのは、台北経済文化代表処那覇分処の王瑞豊処長(47)。

 就任約1カ月前にロシアがウクライナに侵攻、8月にナンシー・ペロシ米下院議長の訪台に反発し、台湾を包囲する形で中国が大規模演習を実施した。台湾情勢がかつてないほど緊張するなか、良き隣人である沖縄の人々にこそ知ってほしい台湾の現状とは。

力で現状変更をもくろむ予行演習か

――就任早々、台湾を取り巻く国際情勢が目まぐるしいです。今回(8月)、中国人民解放軍は台湾を包囲する形で6海域で大規模軍事演習を実施し、弾道ミサイル「東風」を発射しました。また日本の排他的経済水域にも5発落下し、そのうち4発が台湾本島上空を通過したと推定されると、日本の防衛省が発表しています。大方の見方ではペロシ氏訪台の報復と受け止められていますが。

「演習はエスカレートしています。3日~7日の間に延べ100機の中国軍機が台湾海峡の中間線を越えて防空識別圏(ADIZ)侵入しています。その都度、国防部(国防省)はスクランブル発進をかけて対応していますが、中間線越えは常態化しています。

 今回の大規模演習は中国の過剰反応であり、ペロシ氏訪台を口実にした中国側の明らかな挑発行為で、力で台湾海峡の現状変更をもくろむ台湾侵攻の予行演習に見えます。

 米下院議長の訪台は今回が初めてではありません。1997年4月2日、ニュート・ギングリッチ氏が中国訪問の後、約3時間滞在しました。その2日前、ニューヨーク・タイムズが『ギングリッチ氏が中国に警告、アメリカが台湾防衛に介入』というタイトルで記事を出しましたが、当時の江沢民政権は表立った批判はしませんでした」

――今回は「中国サイバー軍」によると思われるサイバー攻撃もあったようですね。

「今月2日に外交部(外務省)の公式サイトに1分間で850万回もの不正アクセスがありました。プロの仕業としか思えません。IPアドレスを辿っていったところ、中国とロシアからのものであることが分かりました。

 4日から6日にかけてのアクセス数は、1分間で1億7千万回に達し、外交部の公式サイトを一時遮断せざるを得ませんでした。ロシアがウクライナに仕掛けた手口で、両国は裏で手を結んでいるということは明らかです」

ファクトチェックで国民の不安解消

――サイバー攻撃で思い出したのですが、元那覇分処処長の故・蘇啓誠さんは、大阪弁事処の処長に赴任後、間もなく発生した台風21号によって関西国際空港が閉鎖された際、「中国領事館はバス15台を手配して中国人を優先的に退避させたのに、台湾は何もしていない」とのネットの書き込みに追い詰められ、悲しい結末を迎えました。後になって中国当局が仕掛けたフェイクニュースだということがIPアドレスによって判明しました。

「私が台北駐日経済文化代表処(在東京)に勤務していた2005年7月から12年1月の数年間、蘇さんは尊敬できる上司であり、また同じ恩師から日本語を習っていたこともあり、いわば兄弟弟子の関係でした。亡くなった18年9月に休暇を取って大阪に飛んで行きました。言葉にできないほど悲しい事実でした。

 その悲劇を繰り返してはいけないと、台湾政府はネット上に出回っている有象無象の情報をファクトチェックする取り組みを強化しています。今回も台湾東海岸に中国船籍の漁船が大挙上陸したといった情報が流れ、調べてみるとフェイクでした。画像も合成されていました。それらを一つ一つ精査して国民に不安を与えないようにしているんです」

――偽の情報に流されず正しい情報を共有することが大事ですね。
 ウクライナ戦争の約1カ月後の3月22日、台湾のケーブルテレビ局TVBSが世論調査を実施しました。「もし(台中)両岸で戦争が起きた場合、アメリカは台湾に出兵し、防衛すると信じるか」の問いに、「信じる」は30%、「信じない」は55%でした。「台中」を「日中」に置き変えて、日本で同じように実施するとその比率はともかく、「信じる」が上回ることは想像に難くありません。台湾の人々は現実を直視しています。

「イラク、アフガニスタンからの撤退や、バイデン大統領がウクライナ戦争には軍事介入しないと表明したことなど、ここ数年のアメリカの動きを見ていると、自国の安全保障は自国で担わなければならないと国民が気付いたのだと思います。

 学生の兵役期間は2013年に4か月に短縮され、18年10月には完全志願制に移行していました。それがウクライナ情勢によって1年に戻すことを検討する議論が持ち上がっています。

 またマンネリ化していた『万安演習』(軍事防空演習)。今年は7月25日に台北市を含む北部7県市で行われ、例年と違って緊迫感があり、住民は真剣に取り組んだそうです。敵機が空襲を仕掛けた想定で行われる避難訓練は、サイレンとスマートフォンにアラートを送信して発せられ、開始されると住民は避難指示に従わなければなりません。違反すると罰金を科されることもあるんです」

「戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」

――「備えあれば憂いなし」ではありますね。それでも知恵を働かせて軍事衝突は避けたいところです。

「蔡総統は『与野党が一致団結して国土、主権と民主主義を守ることを希望する』とメッセージを発表しました。そのことは、台湾が今まで築いてきた成果を守るためには、中国の圧倒的パワーには屈しないということであり、決して中国を挑発して沖縄、日本を戦火に巻き込むことではないんです。

 孫子の兵法にこんなのがあります。『百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり』。多くの民主主義国と連携して国際世論を味方に付けて、中国の暴挙を食い止めるために、まず沖縄の皆さんと手を携えて歩んでいきたいんです」

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友寄 貞丸

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伊江村出身。1990年から主に中国、台湾の取材執筆活動を続ける。2014年11月Uターン。著書に『雲南哀楽紀行』(愛育社)など。国境を越えても一線を越えない旅と取材を信条とする。

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