「国境の島」与那国町ルポ 中国軍事演習で緊迫、国家間対立に翻弄される島民

 
与那国島の東端「東崎」。日本の在来種で、与那国町の天然記念物である「与那国馬」が放牧されている。島の反対、西の海の向こう側には台湾がある=8月13日、与那国町(長嶺真輝撮影)

 日本最西端の島、与那国町。台湾までおよそ110キロしか離れていない「国境の島」だ。人口約1,700人ほどの小さな籬島が今、台湾を巡る軍事的な緊張の最前線に立たされている。米国のペロシ下院議長による訪台に反発した中国が台湾を取り囲む6ヶ所の海域で大規模な軍事演習を行い、9発中5発のミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下。演習が行われた海域には与那国の漁師が使う漁場から「20~30キロくらいしか離れていない」(与那国町漁業協同組合関係者)場所もあり、漁協は一時、漁の自粛に追い込まれた。「台湾有事」がにわかに現実味を帯びる中、国家間の対立に島民が翻弄されている。

自粛明けに獲れた旧盆用の魚

 筆者が島を訪れた8月12日は、2日前の「ウンケー」であの世から迎えた先祖を送り返す旧盆最終日の「ウークイ」の日。島外に住む親戚も島に戻り、一族みんなで旧盆料理を食べ、仏壇に手を合わせる。集落内の路地には線香の匂いが立ち込め、エイサーの「ドン、ドン…」という太鼓の音と若者たちの威勢のいい掛け声が夜遅くまで島に響き渡っていた。

先祖をあの世へ送り出すため、集落の至る所でエイサーを踊る島の若者たち=8月12日、与那国町与那国

 「漁の自粛が3日前に解禁されたおかげで、今日も朝6時頃から海に出て、旧盆用の魚を獲りにいくことができました」

 島の西部、久部良港。12日午後3時ごろ、漁を終え、所有する漁船内で一服していた男性(43)が黒く日焼けした顔をほころばせた。台湾側の西向けに5キロほど船を走らせた場所にある近海の漁場で小ぶりなキハダマグロを数匹獲ってきたという。「旧盆中はお供え用に魚が多く必要だから、漁に出られて良かったです」

脅かされた「日常」 

 海に出て、魚を獲る。そんな漁師にとっての「日常」が突然脅かされたのは、1週間ほど前だ。8月4日に中国がミサイルを発射し、島の北北西約80キロの地点にも落下。30人強が所属する与那国町漁協は急きょ臨時理事会を開き、「人の命に関わる問題」(嵩西茂則組合長)として、例年であれば旧盆前の書き入れ時となる5~8日にかけて出漁と外国船の監視事業の自粛を決めた。

島の西部に位置する久部良漁港

 中国軍の上陸を想定し、台湾軍も沿岸部で射撃訓練を実施。前出の漁師の男性によると、緊張の高まりを警戒してか、最近は台湾と与那国の間の海域を通る外国籍の貨物船が普段より与那国寄りを通過しているという。「通る航路が自分達の漁場に近くなった。向こうもこっちを見てるからぶつかることはないとは思うけど、貨物船は大きくて怖い。漁の邪魔になっています」と不満を口にする。

 男性は中国が演習を行なっていた7日の日中、台湾方面の空に入り乱れる複数の飛行機雲を目撃した。普段は目にしない光景だけに「中国の戦闘機か」と感じたという。9日から漁は再開したが、不安は拭えない。強い日差しが照り付ける空を見上げ、人差し指を立てながら「どうしても上は気になりますよね」と話し、少し顔を引き攣らせた。それでも生計を立てるため、日々海原へ向かう。

 ペロシ氏の訪台や中国の軍事演習に対する受け止めを聞くと、不安を飲み込むように言った。「漁に出ないと生活ができないので、もちろん何もないことが一番いい。でも国と国の問題なので仕方ないですよね…」

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