沖縄の路上生活者支援を21年 夕暮れのおにぎり配達「夜回りチーム結」

 
野宿者の話に耳を傾ける岡田牧師

 「親類縁者の絆が強い沖縄にはホームレスなど存在しない」と言われたのは、今や都市伝説となっている。公園の一角や大型商業施設周辺には、一目でそれと分かる大きな荷物を持った人々を見かけることができる。

 そんな彼らに毎週木曜日夕刻、おにぎりとカップ麵を配って声を掛ける活動を続ける人々がいる。「野宿者自立支援『夜回りチーム結』だ。チーム結の世話人である岡田有右牧師の案内で同行取材した。

流れ作業でおにぎりを準備

 「私が海苔を敷きますから、その上にご飯を載っけていってください」

 那覇新都心の一角に佇む「那覇新都心キリスト教会」の大広間では、ラップを切ってテーブルに広げる、その上に味付け海苔を敷く、茶碗にご飯を盛る、それを海苔の上に載せる、ご飯に味付け昆布をあしらう、そしてくるむの流れ作業でおにぎりを結んでいく。

 いつもなら沖縄キリスト教学院大学の学生らが参加して賑やかだが、この日(18日)は夏休み期間中とあって3人だったので、記者も一連の作業を仰せつかった。この日作ったおにぎりは45個。他にカップ麵50個、ミックスナッツ20袋、魔法瓶、不織布マスクなどを車に積み込んで、いざ出発。

 最初のスポット、泊の「いゆまち」を訪ねた。コロナ禍以前は主に中国人、韓国人観光客が大型バスで乗り付ける人気スポットだ。いゆまち入口から北側の安謝方面に延びる遊歩道は、かつてブルーテントが並んでいたが那覇市が撤去した。

 「ここには久米島出身の方がいました。郷里が見えるからとここで車上生活をしていました。黄疸の症状が見られたので病院に行くことを勧めたが、なかなか聞き入れてはくれませんでした」(岡田牧師)

 次に向かったのは、南北大東島、慶良間諸島、粟国、久米島、渡名喜島などを結ぶ泊港を擁する「とまりん」の一角。ベンチでは5、6人が既に待ち構えていた。合流した女性スタッフ2人も加わり、おにぎりを配り、カップ麵にお湯を注いでいく。

きっかけは神戸での出会い

 岡田牧師が夜回り活動を始めたきっかけは、関西で出会った一人の沖縄出身者。次のスポット「パラソル通り」へ向かう車中で昨日のことのように話し始めた。

 「阪神・淡路大震災(1995年1月17日)が起こった後、私は神戸で『開拓』伝道の牧師をしていました。避難所には多くの人々が避難していましたが、ホームレスはそこで排除され、外で寒さと栄養失調で亡くなりました。以来、超教派のキリスト者による夜回りを始めたのですが、JR神戸駅の高架下で出会ったのが新垣照夫さん(当時80歳)でした。新垣さんは中国の旧満州に召集され、復員後は全国の建築現場を渡り歩き、いつかは帰郷を果たしたいと願いつつ、晩年は野宿生活を余儀なくされていました。

 出会って5年後、私は沖縄へ伝道に派遣され、退院の決まった新垣さんの身元引受人となりました。部屋探しは難航しましたがやっと見つかり、落ち着いたと思ったのも束の間、アパートから消えたんです。

 事故に遭ってはいないか、道に迷ってはいないか、野宿生活に戻ったか。いろんな思いが交錯するなか、捜索願を出し、チラシを公園や国際通りに貼り、野宿生活者に聞き込みもしました。

 失踪?から半年後、神戸在住の牧師から電話があり、『新垣さんは神戸の元居た場所に戻って、今は入院している』。私は矢も楯もたまらず病院に新垣さんを訪ね、聞きました。『なぜあれほど帰りたかった沖縄を出たのですか』と。

 新垣さんは国道58号を走るバスに乗った時のことを話しました。『私が育った頃は浦添から嘉手納まで琉球松の松並木が続いていた。今は松並木ではなく延々と続くのは基地のフェンス。私が想像していた沖縄ではない!』と。さらに『首里城に行った時、若者にうちなーぐちで話しかけたら、ぽかんとして全然通じない。一体沖縄はどこに行ったのか』と。望郷の気持ちが強い分、目の前の光景が受け入れられなかったのでしょう」

休むわけにはいかない

 今は故人となった新垣さんを捜し歩き、野宿生活者と築いた縁で始めた夜回り活動。雨の日も台風が襲来しても1週も休むことなく、活動を始めて今年で21年目に入った。

「人によっては1個のおにぎりとカップ麵がその日初めての、あるいは2~3日ぶりの食事かもしれません。もし自分たちが行かなければ……休むわけにはいかないんです」

 コロナ禍とは思えないほど人通りの戻った国際通り。そこから睦橋通りに入り、しばらく進むと行き当たる「パラソル通り」。既に10人近くが待っていた。女性が2人。30代の若者も力なく座っている。

 「明らかにコロナの影響ですね。以前には見られなかったことです」(岡田牧師)。

 チーム結の活動は、ただ食料を配布するだけではない。まだ働けそうな常連さん?には、仕事へつなげるように「グッジョブセンターおきなわ」のチラシを持参し、相談に行くように勧める。先週も進めたという常連さんは、岡田牧師の顔を見ずにぼそぼそと言った。

 「今、高校野球やっているから面白くて見ているさー。どこで? パチンコ屋さー。高校野球はどこが勝つか分からんからねー。優勝候補だった大阪桐蔭も負けるくらいだからよー」

 高校野球が終わったら相談に行くことを約束して、最後のおもろまち公園に着いた。先週、依頼されたシャツと下着、教会の近所の方が届けたアルミ缶を渡す。既に8時は過ぎていたが、岡田牧師はその場に胡坐をかいた。

 話に耳を傾けるのも活動の一環である。しばらくしてその場を辞したが、この日の活動はこれで終わりではなかった。「あそこにもいる」、そう言って向かったのは電気店や衣料量販店が連なる店頭。車をゆっくり走らせながらベンチを窺う。いなかった。

 「警察に追い立てられて、どこに行ったんだろうか。食べているだろうか」

 岡田牧師の憂いは尽きない。

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友寄 貞丸

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伊江村出身。1990年から主に中国、台湾の取材執筆活動を続ける。2014年11月Uターン。著書に『雲南哀楽紀行』(愛育社)など。国境を越えても一線を越えない旅と取材を信条とする。

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