まれにみる大激戦 参院選沖縄選挙区の勝因敗因を探る

 

 改選数1を競った参院選沖縄選挙区は、現職の伊波洋一氏(70)が2888票の僅差で自民新顔の古謝玄太氏(38)を退けた。得票率にして0.5ポイント差という大接戦を演じた伊波氏、古謝氏の勝因と敗因は何だったのか。地域別の得票結果からは僅差となった市町村が多く、2人とも得意とする地盤で思惑通りに票を積み上げられなかったことが見て取れた。

13勝と28勝

 開票結果を沖縄県内の41市町村別に確認すると、当選した伊波氏が得票差で上回ったのは那覇市や沖縄市など13市町村のみで、残りの28市町村では古謝氏が多く票を集めていた。特に11ある市のうち、8市で古謝に投票した有権者が多かった。僅差の接戦となった市町村が多かったことも特徴だ。

 沖縄の全県選挙では、那覇を制した者が選挙戦を制するとされる。有権者の2割強が暮らす那覇の得票は、幾度となく候補者の当落を左右してきた。

 今回、その那覇市を制したのは伊波氏だった。ただ、古謝氏との得票差は3230票と、伊波氏が初当選した2016年参院選の3万票差から10分の1に縮小している。伊波氏が最もリード差を確保したのは沖縄本島の中頭郡の8948票だったが、ここも16年の19371票差から半減した。

 一方の古謝氏はどうだったか。「出身は那覇市首里石嶺町、ルーツは宮古島市」と街頭でアピールし、両市での集票を狙ったものの、那覇では伊波氏にわずかにリードを許した。宮古島市では伊波氏に4447票差をつけて引き離したものの、同市は投票率が40・95%と県内で最も低く、全県並み(50.56%)ならさらに票差を広げられた可能性がある。その他自民が地盤としてきた沖縄本島の北部や南部でも、古謝氏のリードは僅差にとどまった。

 つまり伊波氏も古謝氏も、得票を当てにした地盤で思うような「貯金」ができず、そのわずかな差で結果的に伊波氏に軍配が上がった、そんな傾向が浮かび上がる。伊波氏周辺は「リードできると思っていた那覇と中部で票が取れなかったことは問題だが、古謝選対も地盤で強さを発揮できていなかった。首の皮1枚で何とかつながって勝てた」と分析してみせた。

「最重点区」で空中戦に比重

 「沖縄選挙区は自民党にとって再重点の選挙区だ。働き盛りの38歳の古謝玄太に、大きく期待をしているからだ」

 選挙戦最終盤の9日、6月の公示直前から数えると3度目の沖縄入りとなった自民党の茂木敏充幹事長(68)は、自ら街宣車に乗り込んで各地で古謝氏への支援を訴え、マイクを納めた。

 選挙戦では党総裁の岸田文雄首相(64)を筆頭に、党幹部や閣僚経験者、知名度のある国会議員らが連日のように沖縄に駆けつけた。その多くは街頭に立ち、不特定多数の聴衆に支援を直接呼び掛ける「空中戦」に臨んだ。知名度不足が課題だった古謝氏と一緒に並ぶことで、多くの有権者にアピールする狙いがあった。

沖縄入りした岸田文雄首相(左から2人目)=7月1日

 ただ、大物議員が相次いで沖縄に入れば、受け入れ側の選対は対応に追われる。街頭に立つとなれば組織動員も必要で、連日となると期日前投票の取り組みなどにも影響が出かねない。古謝選対のとある関係者は「全県選挙では空中戦は不可欠で、効果はもちろんあったが、水面下での関係の深い企業団体への働き掛けを重視してもよかったかもしれない」と振り返った。

無視できなかった第3極

 参院選沖縄選挙区には過去最多タイとなる5人が出馬したが、選挙戦は事実上、伊波氏と古謝氏の一騎打ちとなった。HUB沖縄では、選挙戦中に残る3人にも焦点を当てた記事を配信した。

【参院選】”泡沫候補”が結果を左右する? 過去最多タイの5人が立候補した沖縄選挙区(https://hubokinawa.jp/archives/17253

 この中で「NHK党新人の山本圭氏(42)、参政党新人の河野禎史氏(48)、幸福実現党新人の金城竜郎氏(58)の主張は伊波氏、古謝氏と重なる部分もあるため、浮動票を中心に票が割れる可能性もある」と指摘した通り、3人の存在は、伊波氏と古謝氏の当落を左右する結果となった。

 3人の得票は、合計39263票。このうち最も多いのは、今回の参院選で政党要件を得た参政党の河野氏で22585票だった。伊波氏、古謝氏の得票差が2888票だったことを踏まえると、決して「泡沫」として切り捨てることのできない数字だ。

 マスコミの世論調査によると、参政党には若い人ほど票を投じている。同じくこれまでの世論調査で、沖縄の選挙では若年層ほど自民の候補に入れる有権者が多いことも明らかになっている。つまり、3人が出馬したことで、古謝氏がより影響を受けた可能性は否めない。

 この点は伊波、古謝両氏の選対の共通認識ともなっており、古謝選対の関係者からは「参政党に食われた」との受け止めがあり、伊波選対の関係者からは「参政党に救われた」と安堵の声が漏れた。その意味でも、開票作業の最後の最後まで予断を許さない大激戦となった今回の参院選は近年まれにみる選挙だった。

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