玉城知事を待ち受ける底なしのクレバスの淵

 
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 改選後初めてとなる県議会の6月定例会が6月29開会した。翌30日、本会議の冒頭で正副議長選挙が実施され、第18代議長には与党の会派おきなわの赤嶺昇氏(53)=浦添地区=が選出された。有効投票48票中26票獲得の内訳は、中立無所属2人、公明2人の中立とおきなわ3人、そして沖縄・自民19人だ(以下、沖縄タイムス7月1日付2面引用)。

 与党会派を構成する沖縄・平和(8人)、共産党県議団(7人)、てぃーだネット(7人)の3会派は、与党第1会派の沖縄・平和の崎山嗣幸氏(72)=那覇市・南部離島区=に投票したが、22票止まりだった。

 副議長選では自民の仲田弘毅氏(72)=うるま市区=が24票を獲得。与党3会派は共産の渡久地修氏(67)=那覇市・南部離島区=に集めたが、22票で及ばなかった。無効票が2票あったことから、おきなわの2票が無効で、1人は仲田氏に投票したことが窺える。正副議長を野党の自民党が主導する番狂わせの展開となった。

 投票までに自民党県連幹部と赤嶺氏とで、秘密裏にすり合わせがあったことは事実だろう。

 6月16日付本サイト【薄氷はいつ割れてもおかしくない 県議選後の勢力図】で、「与党内、殊に保守中道を標榜するおきなわには、共産党の強引さを批判する声が強く、同派の3人が与党から離脱すれば、22対26と形勢は逆転する」と書いた。おきなわは与党から“離脱”こそしていないものの、結果は予想通りとなった。

 もはや薄氷と言うより、底なしのクレバスの淵を進むような試練が玉城デニー知事を待ち受ける。

「勝ちに不思議な勝ちあり」

 4常任委員会と議会運営委員会の委員長ポストを巡っても、自民が総務企画(13人)、経済労働(12人)、文教厚生(11人)の3席、中立無所属が議会運営(13人)の1席を占め、与党は土木環境(12人)の1席に終わった。

 注目は総務企画委員会。定数は13人だが、有効は12票で自民の又吉清義氏(62)=宜野湾氏区=と共産の西江純恵氏(69)=浦添市区=が6対6で並んだ。くじ引きで又吉氏に決まったが、顔ぶれからおきなわの平良昭一氏(57)=国頭郡区=が無効票に寄与したようだ。

 与党が一矢を報いた土木環境(12人)を巡っては、野党の自民4人、中立の公明1人、おきなわ1人の計6人が当初、自民の照屋守之氏(64)=うるま市区=から直前で同呉屋宏氏(61)=宜野湾市区=に変更。照屋氏に1票流れ、てぃーだ2人、沖縄・平和2人、共産2人の計6人の与党が推すてぃーだの瑞慶覧功氏(64)=中頭郡区=に決まった。

 いわば敵失によるもので、照屋氏に流れた1票がなければくじ引きに持ち込まれたのは確実で、名将・野村克也氏の語録で言えば、まさに「勝ちに不思議な勝ちあり」だ。

 正副議長、5委員会中4委員会の委員長ポスト、5委員会の副委員長の獲得は「出来すぎ」だとしながらも、赤嶺氏の議長選出はシナリオ通りだったと振り返るのは、県内の政界関係者だ。正副議長選挙の前日の昼下がり、この関係者は那覇市内のホテルラウンジで、「名前や所属、肩書を明かせない人物」に声をひそめ、こうささやいていた。

 「自民党がおきなわ所属の3人を自分の会派に引き入れようとしたのでは、赤嶺氏側と支持者との信頼関係もあり、信義に厚い赤嶺氏は絶対に呑まない。同一会派ではなく、連立を組むというスタンスで、赤嶺氏を議長に担ぐ。それなら赤嶺氏も支持者を裏切らずに済む。それが最善の策ではないか」

 結果はその通りとなった。当然のことながら、与党の崎山氏におきなわの3票が集まるものと疑わなかった与党第1会派の沖縄・平和の仲村未央代表(48)=沖縄市区=は、「与党を表明しながら自民と結託し議長に就任したことに何の大義があるのか。全く理解できない」(タイムス1日付)と不快感をあらわにした。

与野党が切磋琢磨する議会に

 しかし、県議選前から保守陣営がおきなわの所属議員に秋波を送る動きはあった。今春発足した「21令和の会」だ。儀間光男前参院議員、平良朝敬前沖縄観光コンベンションビューロー会長、安慶田光男前副知事らが主要メンバーで、「オール沖縄」が支える玉城県政とは一定の距離を置き、保守中道を標榜するグループだ。

 同グループは、玉城知事のお膝元の沖縄市区から出馬した玉城満候補(61)を積極的に支援した(結果は落選)。おきなわにキャスティングボートを握らせ、共産党と社民党が主導するオール沖縄に楔(くさび)を打ちたいという狙いがあったからだ。

 そのオール沖縄。「腹六分、腹八分」を呼び掛けた故・翁長雄志氏の次男・雄治氏(32)が那覇市・南部離島区でトップ当選を果たしたことは、「今後、微妙な影響を与えそうだ」と前出の政界関係者は指摘する。

 「雄治君自身は好青年で政治家としても好感が持てる。しかし那覇市議を1期務めただけで県議にというのは早すぎる。本人ではなく周りが担いだのだろう。推薦を出した国民民主などは勝ち馬に便乗したとしか思えない。それに政界は怨嗟や嫉妬が渦巻く世界。1人で3人分の票を取ったというのは、今後さざ波となって表れるだろう。もし翁長さんが生きていたなら絶対に許さなかったはずだ」

 この政界関係者は保守の立場ながら、翁長氏の政治姿勢、人柄、実行力を誰よりも評価した。

 さて赤嶺氏は議長就任で、メディアの取材に「玉城知事ではなく、私が支えるのは県民だ」「ワシントン事務所は費用対効果でいえばもっとしっかりしてもらわないといけない。辺野古反対なら何でも金を使っていいわけではない」と、追及する構えを見せる。“なれあい”を嫌うのは、与党内に緊張感をもたらし、与野党が切磋琢磨する議会を取り戻す抱負の表れとみた。

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