馬毛島秘録③ 知られざる内幕
- 2020/7/7
- 政治
米軍普天間飛行場の県外移設を掲げた鳩山政権が、移設先の候補地のひとつとして馬毛島を検討していたことはすでに述べた(こちらを参照https://okinawanewsnet.jp/?p=688)。
その鳩山政権が2010年6月、県外移設を断念して政権を放り出してしまうと、島の地権者である立石勲氏は、続く菅直人政権との再交渉を求めてルートの開拓に躍起となる。
立石氏はその先月に脱税の疑いで東京国税局から東京地検に告発を受けていた。取引先の銀行から融資の返済を迫られ、架空の固定資産売却損を計上するなどの方法で法人税3億2千万円を脱税したとされたのだ。
当時、立石氏は「前年に税務署から指摘を受けすぐに修正申告することで決着がついていたのに、いきなり国税の係官らが家宅捜索を行い、関係のないはずの馬毛島関連の書類を持ち去った」と主張していたが、告発されたことをマスコミに報道された影響は大きい。金融機関からの資金調達がままならなくなってしまったのだ。
「島に缶詰工場でも」
2010年9月、窮地にあった立石氏に思わぬところから資金提供の打診がある。中国共産党中央対外連絡部(中連部)である。中国共産党の対外活動を担当する部署だ。
2010年9月といえば、この月の7日に尖閣諸島沖で操業していた中国漁船がこれを取り締まる海上保安庁の巡視船に衝突する事故が起きている。
船長を海上保安庁が公務執行妨害で逮捕し9日に那覇地検に送検すると、中国は猛反発。中国国内にいた日本のゼネコン社員らを「許可なく軍事管理区域を撮影した」と拘束したほか、レアアースの輸出差し止めなどの報復措置に出た。結局、那覇地検は船長を処分保留として釈放した上で、国外退去とした。
日中関係が緊張したまさにその時期に、中国共産党と立石氏を仲介した人物がいる。東京の麹町に事務所を構えるこの仲介者にかつて話を聞いたことがある。
「中連部は資金を提供するから馬毛島の開発に参画したいという意向でした。もちろん、中国にも思惑があってのことでしょう。南西諸島にある馬毛島に中国が関心を示しているということになれば、驚いた日本政府から尖閣問題で譲歩を引き出せるかも知れないと考えたのではないでしょうか。『島に缶詰工場を造る計画でも立てますか。必要なら労働者も派遣できますよ』と冗談半分で話をしてました」
詳しい話をするために北京から代表者を東京に派遣しようかという話になったものの、結局、この時は話し合いが実現することはなかった。立石氏がキャンセルしたからだと仲介した人物は語っていた。
「中国共産党が国有銀行からいくらでも金を出すという話でした」
当時は立石氏自身もそう話していた。日本の安全保障のために貢献したい、だから中国は最初から相手にする気などなかった。そうも説明するが、立石氏が中連部の話に乗らなかった理由は他にもあるようだ。
「中連部との話が出てきた途端に東京地検から呼び出しを受けたのです」
東京国税局から告発を受けた東京地検が脱税の取り調べを本格化したのだ。五反田にある地検の分室で取り調べを受けるうちに、これは政府からの警告だと受け止め、中連部との話し合いをキャンセルしたのだという。立石氏は11月に法人税法違反で在宅起訴される。
中国共産党が馬毛島に関心を持った理由を自衛隊幹部は当時、こう推測していた。
「缶詰工場という話はあながち冗談だとは思えません。中国は馬毛島を日米に軍事利用させたくないのですから。鹿児島県の大隅半島から沖縄本島まではこれまで防衛力の空白地帯ですから、馬毛島がもつ戦略的重要性に中国側が気づかないわけがありません」
自衛隊幹部の懸念どおり、中国側はその後も立石氏へのアプローチを断念したわけではなく、幾度か接触を図ったとみられる。
「海南島やシンガポールでのんびりと」
そのうちの1つは、2014年9月、立石氏は東京・六本木の高級ホテルで中国側と会っている。この時に面談した相手の名刺のコピーを見ると、中国共産党中央対外連絡部の副部長に駐日大使館の参事官と一等書記官ら7人。仲介したのはかつて六本木を舞台にした経済事件で名を知られたIT企業の元幹部だという。
相手は中国の国有銀行にある口座の残高証明を示し、馬毛島を買収したいと提案してきた。
「海南島やシンガポールでのんびりと余生を過ごしてはどうですか」
にこやかにそう話す相手に、立石氏はとんでもない話だと応じることはなかった。