コロナ禍の給食需要減で酪農家悲鳴 亜熱帯沖縄の特殊事情も追い打ち
- 2022/5/4
- 経済
経営努力も採算割れ
「頑張っても儲けが出ない。もう何のためにやっているのか…」
八重瀬町の浦崎牧場で代表を務める浦崎徹也さん(27)が、険しい表情を浮かべた。
北海道の高校と岡山の専門学校で本格的に酪農を学び、7年前に祖父の代から続く牛舎で働き始め、翌年代表に就いた。乳牛約60頭と、和牛、子牛を含めて約100頭を飼育している。年々少しずつ頭数を増やし、経営もある程度は安定していた。
しかし、コロナ禍による休校措置と飼料の高騰というダブルパンチで足元が揺らいだ。
「コロナに入る前は食べていける分の儲けが出るくらいは経営を回せていたけど、学校が休みになって(卸単価が)水の値段より安くなってしまった。餌代も上がりっぱなしで、採算割れしてる」
生産コストの肥大化は続くが、資材の高騰などもあり牛乳メーカーによる買取価格の引き上げや価格転嫁も難しい状況だという。
暑熱対策で光熱費がかさむ沖縄
浦崎さんは専門的な勉強を通して家畜人工授精師と家畜受精卵移植師の資格を取得しているため、外注すると費用が掛かる種付けも自ら行える。ホルスタインに和牛の種を付け、子牛を販売してなんとか収入を上積みしているが、「それもすぐに経費で消える」。
乳牛は酪農王国である北海道からホルスタインを導入しているが、人間が夏バテで食欲が減退するのと同様に、暑さが厳しいとストレスで生産量が低下する。そのため高温な時期が長い沖縄では、牛舎で何台もの大型扇風機を回し続けたり、水分を多めに取らせたりする暑熱対策の徹底がより必要となる。
その分光熱費がかさむため、本格的に気温が上がる夏場に向けて農家は戦々恐々としている。浦崎さんも「今のままじゃどこも経営が厳しくて生き残れない。県の補填や、買取価格の引き上げがないともう限界」と窮状を訴える。
平時であれば県内で生産された生乳はほぼ全て県内で消費され、メーカーは足りない分を県外から仕入れているのが現状だ。さらに農家が減り、県外産への依存度を高めれば輸送費がかさんで商品価格が上がることも想定し、「1次産業を疎かにしたら、痛い目を見る」と警鐘を鳴らす。
若手の責任感 沖縄の食支える
休み無しで、毎日牛舎に足を運ぶ浦崎さん。牛の状態の変化はもちろん、牛舎の衛生環境や備品のメンテナンスにも気を遣う。運搬車を押して乳牛に餌をやりながら、ふと柔らかい表情を見せた。
「その日ごとで、どの牛がどのくらい乳を出しているのかは把握してる。牛の状態に合わせて餌の量を決めています」
厳しい経営状況の中でも、牛との丁寧な向き合い方は変わらない。
自身は20代にして県酪農農業協同組合の理事も務める。県内は戸数の減少こそ進むが、30代や40代の若い就農者も比較的多いという。「自分達のような若い連中が止めたら、沖縄の酪農はもたない。経営は厳しいけど、少しずつ頭数を増やして頑張ろうとは思っている」と強い責任感を滲ませる。
プライドを持ち、沖縄の食を支える1次産業従事者たち。消費者が牛乳を常飲できるのは、彼らの日々の労苦があってこそ。沖縄の酪農家が安定して経営を存続するためには、どのような支援や仕組みが必要なのか。行政だけでなく、消費者一人一人も真剣に考える必要がありそうだ。