航空自衛隊史上唯一の警告射撃はソ連機が相手だった

 

撃墜する権限はなかった

 なお、この事件では航空自衛隊のF4EJは警告射撃にとどまったが、じつは当時、自衛隊機には領空侵犯してきた相手機を撃墜する権限がなかったのである。これを事件後の国会で明らかにした防衛庁(当時)は、対応策を練ると約束したが、すんなりとはいかなかった。事件の翌年から防衛庁の運用課長となった元事務次官の守屋武昌は著書『日本防衛秘録』でこう振り返っている。

 <内部部局における検討は少しも進んでいなかった。国会で検討することを庁として約束したのだからと、私は作業を進めた。まず、領空侵犯機の機体を射撃できる態様を選定し、基準として示す案を作成した>

 だが、防衛庁内部では、「盧溝橋での一発の銃声が日本を戦争に引き摺りこんだ。その歴史を忘れるべきではない」と、基準を示すことに反対する意見が噴出したという。激論を闘わすうちに、対立を収めたのは大蔵省から出向していた畠山蕃防衛審議官だった。守屋氏の前掲書にこうある。

<「任にあたるパイロットを危険な状況において、自らは危険な現場を踏むことも知ることもなく、理想論を言う。そんなのはシビリアン・コントロールではない」。その一言で防衛局の反対はなくなり、この結果、国際社会が対応している基準と同じく、「国籍不明機の飛行前方に政治、経済、社会生活上、重要な施設がある場合は射撃する」と内部通達で示した経緯がある>

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