新しい“沖縄の表現”を探求する「ナナイロノート」 鍵はローカル&ストイック
- 2022/2/1
- エンタメ・スポーツ
動画配信への方向転換
ナナイロノートを稼働させたのは2018年4月。主にギタリストとしていくつかのバンドやユニットを経たHOMAREさんは、楽曲によってボーカルが変わっても自身が中心となって作品を発表できる形態として、クリエイター集団を立ち上げることに考え至った。その際に音楽と同等に映像を作り込むことも決めていたという。
「今の時代の流れを考えて多くの人に伝えることを優先すると、ライブはせずに『配信でいく』という方向に舵をきりました」
スタジオのオーナーであり「サードウェイブ」代表でプロデューサー・エンジニアの濱里稔さんは「最初の1年ちょっとは動画をアップしてもアップしても、誰も見てくれなかったんですよ」と振り返る。ナナイロノートでは運営やサウンドディレクションを担う。
主に洋楽のヒット曲や沖縄出身アーティストの楽曲をアレンジし、県内で活躍するさまざまな人たちをシンガーとして迎える映像をチャンネルにアップし続けていた中で、転機が訪れたのは冒頭でも触れたディズニー作品の主題歌「A Whole New World」のウチナーグチアレンジだった。
「ウチナーグチはあまり日本語に聞こえないようにディレクションしています」と濱里さん。歌詞の翻案はHOMAREさんが大まかなたたき台を作り、細かな言葉の意味や使い方は方言に詳しい専門のメンバーが校正を手掛けている。
「出来るだけ“ネイティブ”で自然な発音や言葉に近づけたいというのはこだわりとしてあります。古典芸能などにも残っている首里の言葉を使うことが多いですね。メロディに綺麗に乗せやすいんです」(濱里さん)
ウチナーグチをメロディに馴染ませる
これまでも既存の楽曲やヒット曲をウチナーグチで歌うアレンジの楽曲は様々あったが、節回しやメロディに対して言葉数を当てはめる「符割り」の部分で不自然さを感じてしまうことも少なくなかった。
しかし、HOMAREさんのアレンジや濱里さんのディレクションは、原曲の旋律と言葉数を踏まえてあくまでも歌を聞かせることを主眼としているため、日本語でもなく外国語でもない不思議な響きが違和感なく耳に馴染む。
「正直、ウチナーグチをやるとは全く思ってなかったんです」とHOMAREさんは言う。むしろ「少し恥ずかしいと思っていて避けてさえいました」。
だがチャンネル開設からしばらく経って、再生回数のランキングを見ると上位5本の全てが沖縄に関連するコンテンツで「求められているのは“沖縄”なんだ」と気づかされてからは、作品の中で沖縄らしさをカッコ良く表現するための手法を模索し始めたという。
ウチナーグチの歌詞には現代的な言葉やツールの固有名詞をHOMAREさんの遊び心で翻案してシャレを効かせた“創作方言”もある。「聴いてくれた人が、その部分に反応してるのを見るのも楽しいんですよ(笑)」
沖縄的要素としてはもう1つ、三線の音色にも妥協を許さない。一般的な調弦よりも低く調整することで音を太くして、存在感を際立たせている。さらに、普通なら三線はボーカルのメロディラインを追うようにプレイすることが多いが、そうはせずにバッキングギターのような位置付けでアンサンブルを構成するように工夫しているのも特徴だ。