奥深きハンド7mスローの“極意” 新記録樹立したコラソン・仲程海渡に聞く

 
7mスローで、前方に倒れ込みながら高速シュートを放つ琉球コラソンの仲程海渡。独自のスタイルを築き、7mスローのシーズン最多得点記録を樹立した=2022年11月、那覇市の県立武道館(長嶺真輝撮影)

 サッカーのPKのように、ゴールキーパー(GK)と1対1での対決となるハンドボールの7メートルスロー(7mスロー)。素人目で見ると簡単に得点できそうだが、実は奥が深い。高さ2m、幅3mのゴール前にGKが立ちはだかり、両手を広げると空いているシュートコースは極めて少なく、瞬間的に様々な駆け引きが行われている。

 そんな「心理戦」の様相を帯びる7mスローにおいて、日本ハンドボールリーグ(JHL)の2022ー23シーズン、琉球コラソンの仲程海渡(30歳、浦添市出身、神森中ー興南高ー東海大卒)が歴代新記録を樹立した。決めた得点は、それまでの記録を2ポイント上回る54得点。成功率は驚異の91.5%に達した。なぜそこまで高確率で決め続けることができたのか。何か“極意”があるのか。仲程に聞いた。

学生まで任されず「バリエーション少ない」

 7mスローとは、明らかに得点が可能な場面でディフェンス側が反則や妨害をした時などに与えられるペナルティスローのこと。シュートする側はゴールから7m離れた位置に引かれた線に片足を固定してボールを放る。どの選手がペナルティを獲得しても、シュートする選手を誰にするかは自由に決めることができる。シュート技術に優れたエース級が多い左右45度のフローターが打つパターンが多い。

 身長170cmと小柄で、サイドプレーヤーである仲程は「僕はシュートのバリエーションが少なく、学生の時まで7mスローを任されたことはあまりなかった」という。神森中、興南高の頃は、2021年の東京五輪男子日本代表で司令塔を務めた東江雄斗(ジークスター東京所属)が同じチームの一つ下の代にいたため、7mスローは主に東江が担っていた。

 東海大学を卒業後はデンマーク3部やコラソン、フェロー諸島(アイスランドとノルウェーの間に位置する島)のチームなどを渡り歩いた仲程。その間に2度の引退を挟み、2021-22シーズンの途中にコラソンへ2度目の加入を果たした。

 各チームで仲程が7mスローを打つ頻度は異なったが、22ー23シーズンは開幕前の練習時から「俺が打つから」とチームメートに擦り込んでいった。理由は「点を決めたかったから」と至ってシンプル。昨シーズンも何度か打ってはいたが、入ったり入らなかったりで安定しなかったため、周囲からは笑われることもあったという。

 しかし、その反応は後に変化していった。

 「最初はチームメートに笑われましたが、決め続けるうちに反応が変わってきました。シーズン終盤では外しても『全部お前が行け』と言ってくれるチームメイトも出てきました。僕はこの周囲の反応を変えていくことも面白かったです」

2パターンを突き詰めた結果の快挙

インタビューで7mスローの極意を語る仲程=3月、那覇市内

 迎えた開幕。初めは主将の東江太輝らが7mスローを打っていたが、アウェーであった2試合目の豊田合成戦で初めて自身の出番が訪れた。「誰かが外したら『次は自分が打つ』って公言していました。で、その試合で味方が外したので、僕が打ちました」。GKは昨シーズンの7mスロー阻止率で2位(.357)につけ、俊敏な動きが持ち味の藤戸量介だったが、コースを突いて確実に決め切った。

 その後の試合も、15~16本連続で成功させた。打ち方は左足を固定し、体をぐっと後方に倒して溜めをつくり、勢いを付けて前方に倒れ込みながらシュートするというシンプルなスタイルだ。シーズン後半こそフェイントを交えるようになったが、当初はそれもしていなかった。それでも決め続けるうちに、悟った。

 「自分はスピードを付けて思い切り打ってるんですが、意外とこのタイプはリーグでも少ないんです。技術が高い選手はGKの動きを見ながら手首をうまく使って打ったり、フェイントをかけたりとかするので。その中でちょっとずつ自分のことを理解し始めて、自分の場合は変なことをするよりも、自分が100%腑に落ちた状態で思い切り打てば入ると考えるようになったんです」

 さらに続ける。

 「もう少しシンプルに考えると、ゴールとの距離は7mだけど、GKも多少前に出てくるので、大体5m半から6mくらいの勝負になる。この距離で人間が思い切り投げたら、よほどのことがない限り止められることはないだろうと。自分は小柄で、その分腕の振りも速いので、余計止めづらいだろうと考えました」

 仲程の7mスローの種類は、GKが止めづらい脇下やゴールの隅を高速ボールで狙うか、野球のチェンジアップのように「抜いて」顔の周辺を通すか。シーズン後半は一度フェイントを入れるスタイルも取り入れたが、基本的にはこの2パターンのみである。

 限られた選択肢を突き詰めた結果、シーズンを通して59本打ち、54本を成功。7mスローランキングで2位の選手が36点だったことからも、いかにずば抜けた数字かが分かる。「自分は良くも悪くもシュートの選択肢が少ないので、7mスローを打つ前の決断が早いんです。迷いがあると絶対に入らない。自分に合う打ち方を見つけられたことが、いい結果に繋がったんだと思います」と分析する。

 仲程はフィールド得点も含めるとチームトップの136点を挙げ、リーグの得点ランキングでも3位に入った。

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