ヤンバルクイナのiPS細胞作製に成功、世界初 種の保存に期待 国立環境研究所など
- 2022/10/29
- 社会
国立環境研究所やNPO法人どうぶつたちの病院沖縄(長嶺隆理事長)、岩手大学などで構成する研究グループが、ヤンバルクイナなど国内に生息する絶滅危惧種のiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作ることに成功した。絶滅危惧鳥類のiPS細胞の作製は世界初。iPS細胞をさまざまな細胞に分化し、鳥インフルエンザなどの感染症リスクを細胞レベルで評価することで、種の保全に向けた研究を前進させる可能性がある。
iPS細胞は皮膚や血液から取り出した体細胞に遺伝子などを導入することで作製でき、さまざまな細胞に分化する能力を有しているため、新薬の開発や病気の原因解明などへの応用が期待されている。今回の成果は、10月24日付けでイギリスの科学誌「Communications Biology」に掲載された。
保護繁殖事業の対象種
今回iPS細胞の作製に成功したのは、ヤンバルクイナの他、ライチョウ、シマフクロウ、ニホンイヌワシの絶滅危惧鳥類計4種。いずれも環境省による保護繁殖事業の対象種となっている。これまで種の保全を検討する上で、哺乳類では国際的にiPS細胞の応用事例がある一方で、鳥類ではあまり進んでいなかったという。
今回ヤンバルクイナについては、死亡した個体から取得した体細胞を使用してiPS細胞の作製を試みた。動植物ごとにiPS細胞の作製に必要な遺伝子セットや培養条件が異なるため、マウスやヒトで使用されている方法では困難だという。ただ研究グループでは以前ニワトリで作製に成功したことがあり、その先行研究を発展させ、7つの遺伝子をヤンバルクイナの体細胞に同時に導入することで、iPS細胞の作製に成功した。
鳥インフルエンザの死亡リスクを評価
野生動物の大量死の要因の一つに感染症が挙げられ、特に2004年以降は断続的に国内の野鳥や家禽で発生している高病原性鳥インフルエンザは絶滅危惧種の生息状況に影響を与える可能性がある。また、高病原性鳥インフルエンザで死亡する野鳥類の多くは脳炎が原因だという。
それを念頭に、発表では「iPS細胞を神経様細胞等に分化誘導すれば、これらの絶滅危惧鳥類の感染症によって発症する脳炎による死亡リスクの高度な評価が可能になります」と説明する。iPS細胞を活用することで致死性の症状が出やすい臓器の細胞や、生体防御の中心となる細胞などが利用でき、種の保全に関するさまざまな知見が得られる可能性を秘めている。
また、鉛中毒のような汚染物質による中毒も野生動物の大量死の要因の一つとして知られ、それにより神経症状を発症することが分かっており、「本研究で樹立したiPS細胞を幹細胞様細胞や神経様細胞に分化し、ばく露実験に利用することで、汚染物質の代謝や神経毒性等の高度な評価が可能になります」としている。