タリバーンを孤立化させてはならない-報復を防ぐために日本ができること-

 

 私がアフガニスタンに駐在した最後の年の2006年から2008年にかけてがアフガニスタン情勢のターニングポイントでした。2007年の時点でタリバーンの影響力の強い地域は主要都市部を除いて全土の54%に及んでおり、2008年には72%にまで拡大しています(ICOSレポート)。私はその時点で対テロ戦争は既に失敗であり、対話による和平以外に解決策はないと各地の講演や、新聞、雑誌で主張し続けました。アフガニスタン政府や国連とタリバーンの和平交渉が密かに行われていた時期です。地方レベルで停戦協定が実現したり、タリバーンを招いたピース・ジルガ(国民和平会議)が模索されたりしてもいました。しかしその時アメリカが対話を拒否していたために、和平の機会は失われてしまったのです。その後タリバーンの勢力が強大化するに従い、タリバーンにとって対話のインセンティブはなくなっていきました。そして内戦は泥沼化の一途をたどります。

あらゆるレベルで対話を

 私が今一番恐れるのはタリバーンによる報復の嵐です。米軍によって何万もの兵士や家族が虫けらのように殺され、報復が闘いの原動力になっていたタリバーンが報復に傾く恐れは十分にあります。しかしタリバーンの指導部は首都を制圧してから一貫して報復はしないと表明しています。これが国際的な承認や支援を期待してのアピールだとしても、チャンスであることは間違いありません。だからタリバーンを孤立化させてはいけないのです。日本政府がなすべきはタリバーンとの正規の交渉窓口を作ることです。主要諸国の中で日本だけがアフガン本土に軍隊を派遣しませんでした。日本が決定的に他国と違うのはタリバーンもアフガン市民も一人も殺していないということです。日本がタリバーンからも一定の信頼が置かれているのはこの一点においてに他なりません。日本はタリバーンと国際社会を仲介する立場にあるのです。

村の青年グループがタリバーンも招いて開催した奇跡の平和集会。左端がJVCの元スタッフで現地NGO代表のサビルラ。手に「ピース」と書かれたプラカード。タリバーンと政府の役人も同席して休戦協定の延長を政府に要請することが合意された=2018年、同国ナンガルハル県

 タリバーンのカブール掌握の二日後、JVCの元スタッフで現在はJVCから独立してできたYVOという現地NGO代表のサビルラが、事務所のあるナンガルハル県の暫定知事を表敬訪問しました。続いて、県のNGOコミッショナーと会見した国連アフガニスタンミッション(UNAMA)の東部地域事務所長とコンタクトを始めました。まず知事とホットラインを作り、国連を巻き込んでNGOとタリバーンとの協議の場を作ろうとしています。国際社会が動く前に地方の都市でタリバーンとの対話のチャンネルを作ろうとしているのです。この動きを国際社会がタリバーンとの対話を始めることで後押ししなければサビルラもアフガニスタンの市民社会も孤立化します。タリバーンを孤立化させないことがアフガニスタンの市民社会を孤立化させないことにもなるのです。

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