世界遺産登録で北部に滞在型の観光を 苦境の今だから始める取り組み

 

観光名所がないのが魅力

 そうしたなか、世界自然遺産への登録が確実となった今回のIUCNの勧告。登録によって「やんばる」の地名度が上がるというだけではなく、本島北部の観光に厚みが増すと期待する。

「コロナ前までの北部での観光といえば、本部町の美ら海水族館や今帰仁村の古宇利島と、本部半島が中心でした。一方で、世界自然遺産に登録されるやんばるの森が広がる国頭村や大宜味村、東村の3村には、目立つ観光名所はありません。でも、こうした観光名所がないということこそが、この地域の魅力です。ここですることといえば、自然のなかでトレッキングをしたり、パワースポットを楽しんだり、あるいは希少動物の観察をしたりする体験型のツアーということになりますが、こうした観光はどうしても通常より滞在時間が長くなりますよね。そこがいいと思うのです」

やんばるの森

 滞在時間が長くなるということは、それだけ北部での宿泊の機会が増え、日数も長くなるということ。これまで美ら海水族館などを訪れる観光客は、那覇など本島中南部のホテルに宿泊し、北部は日帰りで訪れるというケースが多かった。そうした人の流れを変えることにつながると期待しているという。

「北部での周遊性を高めるためにも、美ら海水族館や古宇利島といったこれまでの観光地を抱える本部町や今帰仁村、そして体験型の観光を楽しむやんばる3村、そしてリゾート地の恩納村、さらに北部の中心の名護には北部全体の旅行インフォメーションや周遊の拠点としての性格を持たせるなど、役割分担することで、広域的なテーマパークのような性格を持たすことができるのではないでしょうか。さらに、伊是名島や伊平屋島、伊江島へも足を伸ばしてもらえば、北部だけで1週間も滞在してもらえるようになります」

 ただ、課題も多く残されているという。ひとつは世界自然遺産への登録とともに増加が予想される体験型ツアーに対応できるだけの質の高いガイドの育成だ。登録で知名度が上がったからといって、安価でも質の低いツアーを組んでしまっては持続的に優れた観光地として生き残っていけなくなる。コロナ前までは本部港にクルーズ船を誘致する動きが盛んだったが、これも爆買いを目的とする客には、県内でも近隣に多くの商業施設を抱える那覇港などに太刀打ちできるはずもない。むしろ、やんばるの自然を堪能できるツアーで誘客を図るなどの工夫が必要だとする。

「やんばる」をブランドに

 世界自然遺産への登録と並んで、北部の観光を変えるきっかけになると川添氏が期待するのが、来年にNHKが放送する連続テレビ小説「ちむどんどん」だ。料理人として成長していく女性の物語で、やんばるが舞台となる。

「このドラマで『やんばる』という言葉がテレビでどんどん出てくるようになるのです。ぜひこの機会にこの言葉をブランド化して活かしてみたらどうかと思っています」

 コロナ禍に苦しむ県内の観光業界に光明は見えるのか。川添氏は今できることをやるしかないと話す。

「コロナが収束するであろう来年を飛躍の年とするためにも、今をただ我慢するだけの時とするのではなく、すぐに動けるようしっかり準備をしておくことだと思います。これは我々民間だけでなく、行政にもぜひお願いしたいことです」

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