連載小説・宮城亜茶子の生活と意見 第七回

 

 毎月第三土曜日は〈裸足の会〉の日だ。この会は、亜茶子が久茂地小学校で苦楽を共にした同級生たちと開いている模合で、今年で結成十三年目になる。久茂地小学校は二〇一四年に廃校になって、跡地では新しい那覇市民会館の建設が進んでいる。その前を通る度に、亜茶子は思い出の場所がなくなってしまったことに対する物悲しさを感じるが、裸足の会のメンバーが集まると、小学校時代の休み時間へとタイムスリップしたような気分になる。

 現在、裸足の会のメンバーは六人だ。DV男と付き合って百七十万円の借金を背負わされた看護師の夏樹。産後うつで半年ほどゾンビのようになっていた専業主婦の恭子。愛犬・カボチャが死んで重度のペットロスに苦しんだスピリチュアル・カウンセラーの瑠奈。姑との不仲が原因で離婚した求職中の多賀江。不倫相手の奥さんに訴えられたウェブ・デザイナーの美貴。この五人と亜茶子は、時に口論し合い、時に肩を叩いて励まし合いながら、激動の二十代を乗り越えてきた。

 裸足の会の中で、亜茶子は道化役に回ることが多い。意図的に笑いを取りにいっているつもりはないのだが、独自の詩的な表現が自然と笑いを誘ってしまうのだ。その言葉のセンスを羨ましがられる一方で、SDGsや日米地位協定などの真面目な話をしているときにも笑いが起きるので、亜茶子は本音や悩みを打ち明けられないもどかしさを抱えている。

 例えば、夏樹に好きな男性のタイプを聞かれたときのこと。

「向かい合ってドーナツを食べているとするさ」

 亜茶子の独特な状況設定に、周囲は〈また始まった〉とばかりに笑う準備をしている。とりあえず聞く耳は持ってくれていることを確認して、亜茶子は話を続ける。

「でさ、そのドーナツの穴から、こっちを覗いてくるような人」

「は? めっちゃ怖いんだけど! ……鳥肌立ってきた」

 顔をしかめた多賀江が両腕をさすりながら言う。

「気持ち悪いし、そんな人のどこがいいの?」

 一通り笑ったあと、我に返った恭子が聞く。亜茶子はミステリアスかつユーモラスな男を表現したつもりだったが、そのニュアンスがまったく伝わっていないことにがっくりと肩を落とす。が、ここでただ一人、瑠奈が「無言で?」と興味ありげに聞いてくる。

「無言で」

 亜茶子は少し考えて、そう答える。

「でも、なんかわかる気がする」

 しかし、瑠奈の共感を、亜茶子は素直に受け入れることができない。カウンセラーとしての職業病なのか、瑠奈はどんな話題にも共感を示すのだ。そして、最終的に星座や前世、パワーストーンや拝みの話になるので、亜茶子は繊細な胸の内を明かすことができない。

「有名人だったら誰が好きなの?」

 人を小バカにするところのある美貴の質問に、亜茶子は「隠岐の海」と即答する。

「オキノウミ? 誰それ? 人間?」

 隠岐の海を知らないメンバーたちに呆れて、亜茶子は語気を強める。

「関取さ、関取。八角部屋の」

「ハッカクベアーって何よ? 台湾の熊?」

 台湾の熊! 多賀江の発言に、不必要な爆笑が起きる。亜茶子は「ハッカクベアーじゃなくて八角部屋! お相撲さんよ、お相撲さん!」と説明を加える。すると、美貴が「あんたデブ専だっけ?」と的外れな問いを投げ掛け、またしても笑いが起きる。そのあと、瑠奈が「体が大きくて力の強い人って男らしくて魅力的だよね」と言い、「いろんな意味で私はムリだな」と夏樹が反論し、話は本筋から外れ、歪な曲線を描いてアルコールの闇の中へと消えていく。

 過去の出来事をふり返って、亜茶子はよくこのメンバーと十三年も模合を続けてこれたな、と思う。実際、夏樹の能天気さや美貴のワガママがストレスになって、模合を抜けようか真剣に悩んだ時期もあった。しかし、そんなときに限ってモンパチフェスのチケットが当たって六人で参加したり、ローラ・メルシエのホイップトボディクリームをプレゼントされたりして、脱退のタイミングを逃してきた。グスク・トリオとの戦いでグロッキー状態になっているときに支えてもらったことを考えれば、持ちつ持たれつの関係であることは間違いなく、今では腐れ縁なのだと諦めている。

 ここ最近、裸足の会では老後をどう楽しく過ごすかについて話し合うようになった。夫やパートナーがいない場合はみんなで一緒に住もうということになっているが、インテリアと部屋割りで意見が大きく分かれていて、行き先には暗雲が漂っている。ただ、家の中に八角部屋(ハッカクベアー)という名前の部屋を作ることだけは決まっていて、亜茶子は早くも「女将」と呼ばれている。

(続く)

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野原誠喜

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1986年沖縄生まれ 詩人・小説家
第40回琉球新報短編小説賞受賞
詩集『燃えた城のある街で』

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