連載小説・宮城亜茶子の生活と意見 第五回

 

 十六日祭の日。亜茶子は妹の和果子に車で拾ってもらったあと、ケンタッキーと上間天ぷら店をハシゴして首里の霊園に向かった。車の後部座席では、緑と黒の市松模様のマスクをつけた甥の満司郎と姪の柚子が鬼滅の刃の話で盛り上がっている。亜茶子も「鬼滅」が流行っていることくらいは知っているが、長年グスク・トリオという現実の鬼たちと戦ってきたので、二次元のそれには興味がない。

 鬼の話はそっちのけで、亜茶子は助手席に座っていることに全集中している。交通事故が起きませんようにという強い願いに加えて、和果子の横にいると変に緊張して体が固くなってしまうのだ。幼い頃からさんざん比べられて育った後遺症で、未だに競争心や対抗心が拭えずにいる。

 中学・高校とバレー部の副キャプテン(地区陸上競技大会ではハードルの選手)で、運動が得意だった亜茶子に対して、中学・高校と生徒会の書記だった和果子は席次が常に三十番以内の優等生だった。亜茶子はスポーツも勉強も同じレベルで評価されるべきだと考えていたが、学校ではテストの成績が重視されて、親に褒められるのはいつも和果子の方だった。短大卒業後は早々と結婚を決めて、今では立派に母親業をこなしている和果子は、亜茶子から見ると人生のハードルを軽々と飛び超えてきたように映って、釈然としない。

 霊園に着くと、ちょうど墓の掃除が終わったところらしく、父の繁晴と武則おじさんがブルーシートを広げていた。母の登志子と糸満のおばちゃんは拝みの準備をしていて、祖父の繁伸(八十九歳)はパイプ椅子に座って雲を眺めていた。従兄弟夫婦の長女・佑佳ちゃんが前に会ったときよりも十センチほど大きくなっているのを見て、亜茶子は自分の知らないところでも確実に時間が流れていることを痛感した。

 雄二おじさんから遅れるという連絡が入ったあと、繁伸が拝みの開始を宣言した。天然ボケな性格の上、軽い認知症もあって、毎年、繁伸の拝み方は変化する。ある年はサトウキビの切れ端を墓の四隅に置くことにこだわったが、別の年はキッチンペーパーに包んだリンゴの横にモズクの天ぷらを添えると言って聞かなかった。呆れた繁晴が「去年はこうじゃなかったよ!」と突っ込むと、繁伸は「気持ちが大事だから、形にこだわる必要はないんだよ!」と返して、一同の失笑を誘った。以来、〈今年の繁伸を楽しむ〉ことが十六日祭やお盆の隠れテーマとなっている。

 皮を半分剥いたバナナを供える新しいスタイルの拝みが終わり、車座になって食事をしていると、雄二おじさんがやって来た。グスク・トリオでいうところの金城さんタイプの雄二おじさんは、喋り出したら止まらない性格で、離れて見ている分には面白いのだが、絡まれると実に厄介な存在だ。亜茶子は心の中で〈来るな来るな〉と強く念じたが、その想いを嘲笑うかのように、雄二おじさんは亜茶子の隣にどかっと腰を下ろした。

「うい。結婚はまだか?」

 亜茶子は心の中で舌を打った。この十年間、あいさつ代わりに同じ質問を受けていて、ほとほと嫌気が差していた。例年、「まだです」、「彼氏は?」、「いません」、「性格に問題があるんじゃないか? はっはっは」と続き、最後には登志子が「いい人がいたら紹介してあげて」と締めるのがお決まりのパターンになっている。今年は無視しよう。そう決めて沈黙を貫いていると、突然、繁伸が大きく肩を上下させながら号泣しはじめた。

 一同がザワつく中、繁伸が発する切れ切れの言葉を繋ぎ合わせてみると、「コロナで大勢の人が死んでいる中、こうして家族で集まることができて感無量だ」ということだった。ついさっきまで心が毛羽立っていた亜茶子だったが、不覚にも、胸が熱くなってしまった。家族の時間を面倒に思う一方で、やはり、そこから大切なことを学んできたことも事実だった。魚の天ぷらを食べながら、この家族に生まれてよかったな、と思った。そして、そう思える自分になれたことが、何よりも嬉しかった。

(続く)

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野原誠喜

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1986年沖縄生まれ 詩人・小説家
第40回琉球新報短編小説賞受賞
詩集『燃えた城のある街で』

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