航海民族を繋ぐ音楽プロジェクト  映画『大海原のソングライン』

 
『大海原のソングライン』のワンシーン

 私は西表島の知り合いの老人から、ある面白い話を聞いたことある。八重山諸島の島々の言葉の中で、波照間島の言葉だけはほかの島とは異なる系統の感覚があり、また波照間出身の方の顔も台湾本島の南東沖にある離島「蘭嶼(らんしょ)」に住むタオ族にそっくりだという。

 さらに面白いことに、波照間島の 聖所である「白郎原御嶽(シサバルワー)」には既に絶滅危惧種になった「クロボウモドキ」という稀少な植物の世界唯一の純林がある。
 この純林は、島の一番神聖な「ピテヌワー」(野原の御嶽)に何千年も叢生し、年3回の祭事をのぞいては、神司以外立ち入り禁止の場所だ。興味深いことに、この植物は波照間島と西表島の一部以外だと、台湾の蘭嶼に生息することが分かっている。80歳を超える老人が自分の経験論で教えてくれたことが、論文を読んで得た知識よりも肌感覚で伝わった。

波照間島と蘭嶼を繋ぐ伝説

 台湾の本島にも生息しないこの奇妙な植物は、どういうルートで蘭嶼と波照間島を繋ぐだろう。

 調べてみると、波照間島のある伝説がまたこの二つの島を繋いだ。「パイパティローマ」は八重山方言で「南(ぱい)の果て(ぱて)のサンゴ礁(ろーま)の島」という意味で、すなわち「南波照間島」を指した。1648年、琉球政府の重税を逃げるため波照間島平田村の農民らはその島に向かって逃げた、という説が『八重山島年来記』に記録されている。そのほか、島に伝わる話は多々あり、「パイパティローマ」が実在するなら、その可能性が一番高いのは台湾の蘭嶼という説に辿り着いた。

 台湾の台東出身の私は、恥ずかしながら同じ台東県に所属する蘭嶼へ行ったことはないが、この話に幻想的な印象を受け、映像作品の企画をしてみたいと考えた。

 蘭嶼のタオ族は伝説、文化、神話、あるいは言語上において、既にフィリピン北端のバタン諸島に繋がることが検証され、近年は祖先のルートを辿る二島の交流活動が盛んに行われている。「南島語族」(オーストロネシア語族)は、台湾を中心に数千年かけて環太平洋の島々に航海して移り住んだ広い文化圏を持つ。「日本最南端」である波照間島がこの文化圏の波に触れ、繋がりがあったとしても不思議ではない。

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