追悼 大城美佐子さん 沖縄民謡の正統派「唄者」

 

島思い、歌思い、人思いでもあった

 ステージタイムとなり、持ち歌でもあるこの歌をリクエストした。すると、普段は弟子に任せている客とのデュエットを、なんと大城さんが買って出てくれたのだ。本土から来た常連客のリクエスト「伊差ヘイヨー」を含め、順番は忘れたが「茶売り節」「デンスナー節」の3曲をデュエットしていただいた。

 後にも先にも会ったのはあの時の一度だけだった。「茶売り節」以外、他の曲についても解説してくれたので、いつか時間を得て一つ一つ書き留めておきたいと思っていた。

 「美佐子先生は、『聞かれたら(民謡の)正しい知識を伝えたい。それが後世、そして沖縄のためになる』と常々話していました。聞かれると本当に喜んで答えてくれるんですよ。民謡のこと、沖縄のことが本当に好きだったんですね」(吉野さん)

 吉野さんの言う「聞かれたら」の言葉が自分に向けられていたようで、己の不義理を恥じ入るばかりである。

 映画「夢幻琉球つるヘンリー」で共演し、メカル監督役を務めたローゼル川田さんは、ロケ現場で見た大城さんの気遣いとおちゃめな一面が忘れられない。

 「演技は共に初心者だったが、美佐子さんには圧倒的な存在感がありました。撮影現場では気さくに声を掛けてくれたり、テビチやそばを作って振る舞ってくれたりするなど、自然に気遣いができる優しさを持っていました。与那原での撮影だったのに、辺野古に行ってしまったことがあって、ばつが悪そうなところが可愛かったです。沖縄の魂のこもった歌が聴けなくなったのが、今となっては本当に残念です」

 大城さんが歌う曲の中で記者が最も好きな「ヒンスー尾類小」にこんな一節がある。「ひーさそーしにちんくしてぃ やーさすしねー物呉ぃゆんでぃ 沙汰残ち(寒そうにしている者には着物を与え、腹をすかした者には食べ物を恵む芸妓がいるという噂があった)」

 それを地でいった感のある大城さん。島思いでもあり、歌思い、人思いでもあった。合掌。

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