追悼 大城美佐子さん 沖縄民謡の正統派「唄者」
- 2021/1/20
- 社会
「実は美佐子先生は美空ひばりが大好きだったんです」と振り返るのは、大城さんが経営する民謡酒場「島思い」を時々手伝い、身の回りの世話もしていた吉野律子さんだ。
吉野さんが訃報を知ったのは、那覇空港に到着した18日夕方。ここ半年は家族の住む東京と行ったり来たりを繰り返し、最後に会ったのは昨年7月8日だった。
「北海道からもファンが来て、ホテルで誕生日のランチをしたのが最後です。電話でのやり取りはあったんですが……。今でも掛けると『はいよ~』と言って、取ってくれそうです。先生の『はいよ~』は、落ち込んだ時などに聞くと本当に癒やされるんです。まだ何も信じられないんです」
本来の歌詞を次の世代に伝えたい
吉野さんは、大城さんの義理堅さとこまやかさを誰よりもよく知っている。
「たばこも吸うし、お酒も泡盛をロックでがんがん飲むので豪快なイメージがありますが、とてもこまやかな人でした。ファンからお土産や贈り物を頂くと住所をメモっていて、夏にマンゴーなどを送っていました。頂き物もスタッフで分け合い、独り占めにはしません。一緒にお寿司を食べに行くと、私の好物を覚えていて『玉子、甘エビ』と、私より先に注文していました」
実は記者も少しく関りがある。4年前、客もまばらだったカウンターで、沖縄民謡の現状を憂える大城さんの話は切実だった。
「多くの人がカラオケなどで民謡を歌うようになったのはいいことなんだけど、歌詞がバラバラで訳もいい加減。間違いを直して、本来の歌詞を残し次の世代に伝えたい」
その一例が「茶売り節」である。田舎の男二人が茶葉を買いに街に繰り出す際、夫に掛けた妻の言葉が問題だと言うのだ。歌詞の中には「首里那覇にいもら 尾類呼び酒飲み気張てぃ呉ぃみそーり わった~主(首里那覇に行ったら、芸妓を呼んで飲んだり遊んだりに励んでくださいね、大事な旦那さん)」
この歌詞に大城さんは怒り心頭だった。
「『気張てぃ呉ぃみそーり(励んでくださいね)』?出張に行く旦那に『女遊びに励んでね』という妻がどこにいますか! 本来は『慎しみそーり(慎んでくださいね)』が正しいでしょう」