ズバリ人間国宝って何?文化庁OBに聞く(下)琉舞が担う重要性

 
文化庁OBの田中英機さん

 7月、琉球舞踊家の宮城幸子さんと志田房子さんが「人間国宝」になると発表された。そもそも人間国宝というものを我々はどれだけ理解しているのだろうか。文化庁OBであり人間国宝の担当も務めた田中英機さんに詳しく話を聞く連載の第二回目。

「歴史上の人物となることを約束」

Q6人間国宝は、どうやって決まるのでしょうか?

 先に、“わざ”が重要無形文化財として指定される必要があります。“わざ”の指定と保持者・保持団体の認定は同時なので、ふさわしい保持者・保持団体がいない場合は、指定をすることができません。

 指定は、文部科学大臣に諮問された「文化審議会文化財分科会」によって審議・議決し、文部科学大臣に答申されます。(諮問とは、有識者や特定機関に意見を求めること。答申とは、立場が上の人の問いかけに対して答えること、意見を述べること)。その後官報(政府が毎日刊行する国家の公告文書)での告示を経て、正式に指定となります。

 重要無形文化財として指定されると、ではその“わざ”を正しく体得・精通し、かつ高度に体現している人は誰か、ということになり、同じく文化審議会で審議・議決し、文部科学大臣に答申され、各個認定となります。

 なにせ人間国宝は選挙で選ばれたわけでも申請制度で決まるものでもなく、国の文化財行政施策として実施されるものですから、責任は国が負うこととなり、そのため国史に記録され、やがては歴史上の人物となることが約束されたお人ですから、手続きも大変なのです。

 7月16日に宮城・志田両先生が人間国宝に認定されると発表されたのは答申で、官報にはこれから告示される予定です。

Q7認定までの作業で、田中さんは調査官としてどんなお仕事をなさっていましたか?

 調査官は、諮問案を作る仕事です。
 日本各地へ足を運び“わざ”を持つ人が居るか確認したり情報を集めたりして、その“わざ”が無形文化財に指定するにふさわしいかを確かめて、文化庁内で話し合うための案を作ります。

優れた“わざ”が認定対象

Q8人間国宝になるための条件はありますか?

 条件というより基準が明文化されています。
 重要無形文化財に指定される「芸能または芸能の技法」を①「高度に体現できる者」②「正しく体得し、かつ精通している者」「③二人以上の者が一体となって芸能又は技法を高度に体現している場合において、これらの者が構成している団体の構成員」とあり、琉球舞踊の総合認定保持者は③によって選ばれ、琉球舞踊立方の各個認定は①と②によって選ばれます。

 前述のとおり、“人間国宝”という言葉で誤解されがちですが、「優れた人」が認定されるというより「優れたわざ(歴史上または芸術上特に価値が高いわざ)」が指定され、その高度なわざの体現者が認定されるのだ、ということをぜひ知って頂きたいです。

Q9人間国宝には年間200万円の活動資金が支給されると聞きますが、本当ですか?その対価として人間国宝に課せられる義務はありますか?

 正しくは「重要無形文化財保存特別助成金」といい、人間国宝が自らの芸を磨き伝承者を養成する活動に対して1人あたり年間200万円を助成するものです。

 芸能表現は身体芸でもありますから、身体の故障は避けられません。たとえご自身が舞台に立てなくなった時でも、舞台や稽古場の現場に立ち会い後進に“わざ”を教え伝える義務があると思います。

Q10人間国宝は定員が116人だと聞いたことがありますが、本当ですか?何か理由はありますか?

 定員が決まっているというより、予算定員があります。予算上は200万円×116人で、文化庁は毎年財務省に増額要求を出しているようですが、なかなか認められませんね。

 なお、亡くなった場合は各個認定保持者としての認定が解除されるため、人数は増減します。

琉球舞踊「日本の3つの舞踊文化圏の一翼を担う」

Q11沖縄にはどんな人が人間国宝に選ばれていますか?

 沖縄関係ではこれまで工芸分野が5人、芸能分野が8人認定されています。

 芸能では、「琉球古典音楽」の島袋正雄、照喜名朝一、中村一雄、「組踊音楽歌三線」の城間德太郎と西江喜春、「組踊立方」の宮城能鳳、「組踊音楽太鼓」の島袋光史、比嘉聰の8人のうち、島袋正雄氏と島袋光史氏は死去されたため認定解除され、現在は6人。
 そこに今回の「琉球舞踊立方」として宮城幸子、志田房子両氏が加わることになります。

国立劇場おきなわ
国立劇場おきなわ

Q12今回認定されたお2人は琉球舞踊家。琉球舞踊は2009年に重要無形文化財に指定されていますが、琉球舞踊は日本にとってどんな価値があると思いますか?

 日本全体で見渡してみると、伝統的な舞・踊りは歌舞伎舞踊と上方舞踊に大別できます。東日本と西日本の芸能文化の大きな流れが2つあるわけですが、ここにもう一つ別の文化圏として琉球がある。歌舞伎舞踊と上方舞踊は相互に関係しあっているところがあるけれど、琉球舞踊は別で独自の舞踊世界をひらいている。日本の3つの舞踊文化圏の一翼を担う重要な位置にあるのが、琉球舞踊だといえます。

 ちなみに、現在日本の舞踊界で人間国宝に認定されているのは「歌舞伎舞踊」の西川扇蔵、「京舞」の井上八千代のお二人だけで、このたび琉球舞踊の宮城・志田両氏が加わります。琉球舞踊が日本の舞踊・芸能の歴史の中に確固たる地位を占め、ゆるぎないものとしたことの意義が大変大きいと思われます。

Q13:新しく人間国宝となるお2人にはどんなことを期待しますか?また、琉球舞踊にどんな未来を期待していますか?

 宮城・志田両氏には、とにかくお元気でベテランとして円熟の芸をさらに深めて頂き、特に期待したいのは、助成金も活用しながら後進の指導に尽くして頂きたいと願います。いま、琉球舞踊界は安泰ではないと思うからです。

 これから琉球舞踊の伝統を継いでいく次世代には、新しい舞踊の創作にもチャレンジしてほしいと思います。志田先生は常に創作舞踊にも挑戦し、宮城先生は師匠である真境名佳子先生の創作舞踊を今も大切に踊られている。古典伝承と新作創造の両立はとても困難なことですが、それ位の意欲を若手に持って欲しい。それは必ず古典尊重につながると確信します。新しいというのは、たとえば今あるバレエや日舞などを取り入れるという事ではなく、琉球古典舞踊の素地と現在の自分の技術を生かして創作に取り組むことで、古典とは何か/伝統とは何かという足元を見つめ直す機会になります。伝統の魂を輝かせるきっかけとして次世代舞踊家の挑戦に期待します。

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大野 順美

投稿者記事一覧

一般社団法人ステージサポート沖縄代表。琉球芸能プロデューサー。
東京生まれ。新国立劇場、文化庁勤務を経て、2003年国立劇場おきなわの開場スタッフとして依頼されたのを機に沖縄へ転居。その後(財)沖縄県文化振興会で勤務、沖縄の文学・古謡の事業を担当。2010年組踊を中心とした沖縄伝統芸能の舞台制作として独立、県内外や海外での公演を手掛ける。
大好きな組踊をひとりでも多くの人に知ってほしい&良い舞台が観たいという一心で、組踊と名のつく仕事なら何でもやる人。

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