ズバリ人間国宝って何?文化庁OBに聞く(上)琉舞で新たに誕生

 

 さる7月16日、沖縄に新たな人間国宝が2人誕生すると発表された。琉球舞踊家の宮城幸子さんと志田房子さんである。人間国宝となるお二人の肩書は、正確に記すと重要無形文化財「琉球舞踊立方」(各個認定)保持者、という。

 そもそも人間国宝というものを我々はどれだけ理解しているのだろうか。文化庁OBであり人間国宝の担当も務めたという田中英機さんに、人間国宝とはどういうものか詳しく話を聞いた。

田中氏は国立劇場おきなわの基本構想・設計も

文化庁退任後、実践女子大学教授を務めた田中秀機さん

 田中さんは、元文部省外局の文化財保護委員会(無形文化課)に勤務。昭和43年、委員会は文部省文化局と合併し文化庁が発足、無形文化課は伝統文化課(現在は文化財第一課)と名を変え、伝統芸能や地方の民俗芸能を文化財指定する業務に従事。そのかたわら文化部芸術課の併任で芸術祭の企画制作に携わり、「国立組踊劇場(仮称)設立準備委員会」主任文化財調査官として基本構想・基本設計に関わり、退職。

 その後は大学の教壇に立つかたわら、さまざまな芸術文化団体の役員などを務めて芸術文化の発展に尽力し、現在は琉球舞踊保存会の顧問も務めている。

“わざ”を高度に体現・体得している人

Q1人間国宝とは何か教えてください。

 国の文化財には、寺社仏閣や美術品などの有形のものと、伝統芸能や工芸技術など芸や制作技術の“わざ”と呼ばれる無形のものがあります。その無形文化財について特に歴史上又は芸術上価値の高いものが重要無形文化財に指定され、その“わざ”を高度に体現し、体得している人を保持者として認定します。
 人間国宝は、重要無形文化財保持者として各個認定された人を指す俗称です。

Q2形の無いものを文化財に指定するというのは、どんな風に指定するのでしょうか?

 認定方法には個人の認定と団体の認定の2種類があり、個人の認定には、各個認定と総合認定があります。

 重要無形文化財の保持者または保持団体の認定方法には①「各個認定」②「総合認定」③「保持団体認定」の3種類があります。

「各個認定」は個人の認定。重要無形文化財保持者、いわゆる“人間国宝”です。
「総合認定」は団体の構成員を認定します。

 総合認定の例としては、「雅楽」では宮内庁式部職楽部部員、「能楽」では社団法人日本能楽会会員などがあり、沖縄でいえば「組踊」「琉球舞踊」も総合認定です。

 例えば組踊は、立方と歌三線・箏・笛・胡弓・太鼓など複数の役割で構成されています。このように二者以上の者が一体となって芸能を成立させている場合に、これらの者が構成している団体(一般社団法人伝統組踊保存会)の構成員を重要無形文化財保持者として認定するのが総合認定です。

 琉球芸能の世界では“保持者”という言葉がよく使われているようです。各個認定保持者も総合認定保持者もどちらも「保持者」なのですが、琉球芸能界で使われる言葉としての“保持者”は、各個認定を含まず総合認定を受けた方に対して使われているようですね。総合認定の保持者にも各個人へ文部科学大臣の認定書が交付されます。

「保持団体認定」は、技術・技法で個人的特色が薄い「工芸技術分野」の事例です。

 たとえば織物の工程は織るだけではなく、糸の原料を育てたり、糸の原料である繊維を取り出して、撚って糸を作ったり、糸を染めたりしますよね。そんな風に、地域の伝統産業的工程の技術により、複数の別個の工程が総合されて、ひとつの無形文化財が成立する場合などに適用されます。沖縄では喜如嘉の芭蕉布保存会、久米島紬保持団体などが保持団体認定されています。

文化庁OBの田中英機さん=写真提供:(公財)日本伝統文化振興財団)

Q3各個認定の保持者と総合認定の保持者は、どう違うのでしょうか?

 総合認定が行われる分野は、その芸能自体が文化財保護の対象として考えられているものであるといえます。

 たとえば琉球舞踊は踊り手1人では成り立つ芸能ではありません。歌三線やその他器楽などの琉球古典音楽とも共同して初めて成り立つ。そうなると琉球舞踊というのは“踊り”だけが文化財ではなく、技芸に携わる人を総合的に認定する必要があります。

 総合認定保持者も高度な技の体現者ですが、そのなかでも“わざ”を持った正しく体得・精通し、かつ高度に体現している人が、各個認定として挙げられていく、というのが基本の筋です。

Q4指定と認定、言葉の違いを教えてください。

 重要無形文化財を選ぶ場合は「指定」、そして保持者など人を選ぶ場合は「認定」と言っています。

通称「人間国宝」が定着し“黙認”へ

Q5:人間国宝という通称は、文化庁が作ったのでしょうか?

文化庁が入る中央合同庁舎第7号館(写真奥の高い建物)

 日本の文化財は明治以来有形のものしか認められていませんでしたが、昭和25年に文化財保護法が制定され、初めて無形の“わざ”も文化財として認められるようになりました。はじめの頃は、形の無いものを文化財にするというのは国民にもなかなか理解されず苦労したようです。

 人間国宝は正式には「重要無形文化財各個認定保持者」といいますが、昭和29年に文化財保護法が改正となって保持者の認定制度が規定された時、その長い名前がどうも理解されにくく、またマスコミでも名称を紙面に載せようにも長すぎることがネックだったようです。そのため「美術品の指定なら国宝とか言いますね。人の認定だから人間国宝ですか」という記者の質問があったようで、その後の紙面には“人間国宝”という熟語が大きく掲載されたそうです。

 文化庁としては「優れた人が国宝ではなく、優れた“わざ”を認めますという事ですよ」と再三説明していますが、人間国宝という名前が先行して「人が国宝になっている」という誤解を生んでいるのも事実、現状もあります。

 とはいえ、この人間国宝という言葉のほうが世間には浸透しやすく、同時に重要無形文化財そのものに興味を持ってもらえる普及の機会にもなって、今やすっかり定着していますから、文化庁も俗称を黙認している形になっています。

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