なぜ沖縄は貧しいのか(3) 教育が未来をつくる〜「エンカレッジ」① 理事長に聞く
- 2020/12/13
- 社会
経済的な理由で勉強を諦める子どもたちがいることへの危機感から、学習支援や居場所づくりなどの就学援助児童支援活動に取り組むNPO法人「エンカレッジ」。
12年前から活動を開始し、子供たちが学習する機会の創出や環境の整備などに取り組んできた。現在は14市町村で25教室を開き、170人体制で約900人の子どもたちを支援している。
理事長の坂晴紀さんは「未来を作っていくのが教育だと考えている。沖縄の貧困の連鎖を生まないためには、教育と経済両面からの観点での支援が必要だ」と語る。これまでの取り組みの中で見て感じてきたこと、そしてこれからの課題について聞いた。
教育と経済はセットで
活動を開始したのは2008年。子どもたちへの学習支援の必要性に気づいたのは、エンカレッジを立ち上げる前、坂さんが沖縄市に塾を開業したのがきっかけだった。
「塾に行きたくても行けない子や、月謝を払えずに退塾する子が大勢いた。その一方で、ある程度経済的に余裕がある子どもたちは『ここの塾は合わないから違う所に行こう』という風に“選ぶ”という行動ができる。月謝を支払えない子たちには選択の余地すらない。本来ならば教育は平等なはずだが、全くそうではない現状に直面して、経済格差でこんな状況が生まれるべきではないと強く思った」
沖縄市には特に困窮層が多かったという。「半分近くの子どもたちが学習支援をしていた小学校もある」。沖縄市は生活面での様々な支援があって福祉政策が手厚い分、困窮層の世帯が集まりやすくなる傾向にあり、教育面の施策が追いつかずに学校が荒れてしまう。そうすると、非困窮世帯には「子どもを荒れた学校に行かせたくない」という保護者もいるために、地域を離れるケースも出てくる。
こうした流れは「地域経済が担保されず、その地域で育って大人になった時に、子どもを塾に通わすことができないという連鎖が起きてしまう」と坂さんは分析する。
「地域が本来の意味で成熟するためには、経済だけでなく教育の問題もセットにして考えていかなければならない」
資金の確保が支援の壁
子どもたちの支援に本格的に携わり始めてから貧困率が全国的な問題となった。その中でもとりわけ沖縄がトップということで、一時期新聞やテレビなどの様々な媒体で取り上げられた。そういった取材で沖縄の子どもたちを巡る厳しい状況が周知されたことで、「『子どもの貧困』という言葉として、問題が認知されたのは状況改善のきっかけになったと思う」という。
この時期には、各方面の色んな人たちから声をかけられたり相談をされたりして、支援団体を立ち上げた人も多かった。「いわゆる“沖縄のおばちゃん”たちが動いて、子ども食堂などを積極的にやってくれた」
しかし、支援活動を止むを得ず止める人も多かった。実際に活動して子どもたちの厳しい状況に直面することで「本当に私にこの子どもたちを救えるのか」と自問し、精神的な“重さ”に耐えられずに支援を途絶えさせていく人もいた。
そして、最も大きくのし掛かるのはやはり金銭面の負担だった。ノウハウの蓄積もなく、行政的な補助も含めた十分な資金などもなかったため、坂さんも「何度も止めようと思った」という。
福祉・社会的な観点で問題を見る
支援対象が子どもたちである場合、教育だけでなく「福祉」や「社会」という観点からも問題を見据えなければならないと坂さんは話す。
子どもたちのほとんどが「勉強したい」という気持ちを同じく持っているが、その中では「頑張れる子」と「頑張れない子」がいる。この差を分けるのは成長過程や家庭環境の中での成功体験の有無で、頑張れない子の場合は成功体験をしたことが無いか少ない傾向が大きい。こうした子どもたちは無意識部分で「失敗」に支配されている可能性があり、「やればできる」ということを押し付けるだけでは解決にはならない。
「支援に携わる人間が成功体験の重要性をきちんと認識し、頑張れない子の目線を理解した上でケアをしていかなければいけない。そして社会的にもこうした認識が行き渡らなければ、子どもの社会的孤立も起こってしまう。こうした子どもたちは、抑え込まれて自己表現もできない中で、さらに自分と同等もしくは自分よりも弱い立場同士でくっつくことになる。これが「負の連鎖」の起点となる」