書評『ヤンキーと地元』(打越正行著、筑摩書房)

 

建設業がセーフティーネット

 少年たちのツテで入った型枠解体の現場だが、先輩たちもまた元ヤンキーが多かった。彼らの受け入れを渋る他業種に代わり、建設業がセーフティーネットの役割を果たしている。

〈ベテラン従業員はみな、力持ちだった。その大半が地元の暴走族あがりで、ケンカの経験も豊富だった。ところが、パンチやキックなど打撃系の痛みにはめっぽう強い彼らも、肩や腰の関節の痛みには耐えられないようだった〉

 いかに過酷な仕事人生を経てきたかが分かるというものだ。しかし、建設作業員を見る社会の目は冷淡で、欺瞞に満ちている。会社を経営する社長と奥さんのやり取りは、痛烈な“勝ち組”批判になっている。

〈社長(事務所の)近所(に住む人)は、先生が多いのよ。なんでかな、建設業を下にみてる人が多いのよ

 奥さん(教員の)家の大工してる人たちがいるのに、学生に(向かってその教員が)「勉強しなかったら、こんな仕事しかないよ」って言ったってよ。それで大工が(怒って)帰って、数週間仕事来なかったって〉

 さて本書のタイトルにもなっているように、彼らは地元つながりで作業に従事している者が多い。そこには暴力も辞さない厳しい上下(先輩=しーじゃと後輩=うっとぅ)の関係が存在する。それからは休日も逃れることはできない。

〈建設現場での上下関係は、週末や年末のギャンブル、キャバクラで盛り上がるときにも反映される。毎回、似た展開となるそこでのやりとりは、一見すると変化のないものだが、先輩と後輩の力関係を確認する大事な機会である。先輩は暴力をすら用いて、自分のほうが上だということを見せつける。このように、仕事と週末と夜の世界は切り離されておらず、それによって沖組の人間関係は維持されていた〉

 お盆の季節に行われ、近年では本土の小学校が集団演技として取り上げる「エイサー」にも、この上下関係が生きている。

〈拓哉 エイサーは強制だから、エイサーも嫌。(練習)こなかったら、死なされる〔暴行を受ける〕。先輩、威張ってるのが一番嫌い。(エイサー)我慢してやった。(中略)

 拓哉にとって、地元のヤンキーグループも居心地のいいものではなかった。エイサーを無理強いされるのが面倒だった。そして地元を出た〉

 拓哉のように地元を出るケースは、「第四章 地元を見切る」の「1 地元を見切って内地へ――勝也の生活史」を参照いただきたい。

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