書評『ヤンキーと地元』(打越正行著、筑摩書房)

 

性風俗店へと駆け込む少女たち

 さて、ヤンキーのもう一つのセーフティーネット?が性風俗店だ。「セクシーキャバクラ」を経営する洋介が、店舗経営から身に着けた経験則とそれに裏打ちされた人生哲学もまた、地元のつながりと切っても切れない関係にある。

〈頼れる家族も学歴もなく、地元の建設業にもコネのない彼が「安定」した生活を送るために、地元つながりにもとづく非合法な世界に身を置いたのは必然だった。「学歴なんかより、友だち」という彼のことばは、彼が生きる世界からすれば筋が通っている。「友だち」とは地元つながりのことで、それは仕事の成否を大きく左右する大事な資源でもあった〉

 洋介が経営する「ルアン」には親、交際相手からのDV、クスリなどから駆け込む少女たちがいる。全編を通して、親の暴力、離婚、不登校、非行、少年院……幸せな子ども時代を過ごした人物は出てこない。著者の打越氏は、「沖縄の底辺の闇を明るみに出す」と肩肘を張るのではなく、あくまで彼らに寄り添い、彼らの話に耳を傾ける。それが社会学的な「関与観察」によるものなのか、同氏のキャラクターなのかを論じるのは野暮というものだろう。

 惜しむらくは、彼らとのやり取りを「うちなーぐち(沖縄方言)」と表記していることだ。評者なら「本島中南部うちなーぐち交じり若者言葉」と表したい。試みに、うちなーぐちだとこうなる。

〈勝也 おかーんかいや、男(えぃきが)ぬ居(をぅ)るばーてー。(中略)暴力団やらわんぬーやらわん、我(わ)にんかいや、ぬーん関係ねーらん〉(200㌻)

 いずれにせよ、若者言葉まで駆使し、ボキャブラリーの少ない若者と会話を成り立たせ、心を開かせた、文字通り体当たりでものした一冊である。「第6回沖縄書店大賞 沖縄部門大賞」の受賞作でもある。

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