書評『ヤンキーと地元』(打越正行著、筑摩書房)

 

 本土復帰以前は「一号線」と呼ばれた主要幹線道路の国道58号線は、特に若者たちの間では「ゴーパチ」「ゴッパチ」と称される。

 一時期に比べ沈静化したとはいえ、今も週末の夜になるとマフラーを改造したオートバイが台数を連ねて疾走する。といっても、特攻服に身を包み大型車を駆る訳ではなく、中型二輪以下の小ぢんまりした車列が多いようだ。

調査のため“パシリ”として弟子入り

 著者の打越正行氏は、彼らに接触を試み“パシリ”として弟子入りし、2007年から調査を開始。「眼鏡をかけたナイチャーの大学生(実際は大学院生)」は、コンビニの駐車場で地べたに座り込み、週末の夜は彼らの後ろを原付で追走、スポットではギャラリーとなってアオり、動画の撮影係も買って出る。

 著者が調査で出会った暴走族少年らは、大きく分けて建設現場と性風俗店を生業にしているか、するようになる(「第二章 地元の建設会社」「第三章 性風俗を経営する」)。なんらかの形でそこで挫折したり居場所を無くした者は、“キセツ”と呼ばれる期間工として本土に渡ったり、街金の取り立て屋になったり、はたまたパチンコの“打ち子”やオレオレ詐欺の“出し子”などスレスレのレッドゾーンを行くケースもある。

 本書は、沖縄の少女の貧困問題に本格的に光を当てた『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(上間陽子著、太田出版)、さらに本サイト7月9日付で掲載した「書評『夜を彷徨う 貧困と暴力 沖縄の少年・少女たちの今』琉球新報社」の2冊と対をなす、青少年版と言える。上間氏との共同調査(聞き取り)も収録されている。

 文化人類学などで調査対象の民族をフィールドワークする際、その村に住み込んで寝食を共にするのが一般的だ。社会学者の著者は「参与観察」という手法で、車列を追走するだけでなく、慣れない建設現場で共に汗を流す。

〈現場には、釘が飛び出た桟木や角材がそこかしこに落ちていた。作業をしながら、いつか釘を踏みぬいてしまうだろうと、あきらめにも近い気持ちになる。(中略)初日から三〇分の残業だった。釘を踏みつけることなく、一日の仕事が終わって、心の底からほっとした。これまでの、どんな仕事の後にも味わったことのない爽快感があった〉

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