キムタツコラム⑫沖縄の元気溢れるおじいさんに触れて

 

国内有数の進学校、灘中学校・高等学校(兵庫県)の元英語教員で「夢をかなえる英単語ユメタン」シリーズや「東大英語基礎力マスター」シリーズなど数多くの有名参考書を手掛けている作家の木村達哉(キムタツ)さん。「NPOおきなわ学びのネットワーク」 を立ち上げて沖縄の生徒の学びを支援しているなど、沖縄に縁深く活動しているキムタツさんに、教育に限らずさまざまな角度からコラムを書いてもらいます!


 皆さん、こんにちは。木村達哉です。どうぞよろしくお願いします。またまた感染者が増えてきましたね。僕の知り合いは熱が出て、一週間以上下がらないと言っています。かなり苦しそうで、見ていられないような状況です。皆さん、お気をつけください。と言っても、マスクと手洗いぐらいしかないんですけどね。感染してもほとんどが軽症ということで油断している人もたくさんおられますが、お医者さんやその家族が大変なんですよね。

 さて、先月も10日間沖縄におりまして、いろんな方々とお会いする機会がありました。印象に残る出会いがいくつもありましたので、それはまた別号に書きます。今回は那覇空港に降り立った直後に出会ったタクシー運転手さんについて書きます。

説得力あるタクシーの運転手

 沖縄と他県の大きい違いは、タクシー運転手さんの年齢層がおしなべて高いことです。今回もそうでした。那覇空港で愛犬さくらをANAのグランドホステスさんから受け取って、タクシーに乗り込みました。乗り込むと会話をし始めてくださるのが沖縄の運転手さんの特徴でもあります。東京で沖縄の運転手さんみたいにいっぱい話してくださる運転手さんにお会いしたことはいまだありません。

 今回の運転手さんもずっと話してくださいました。「どちらからいらっしゃったのですか?」「甲子園です。でも、毎月沖縄に来て、月の3分の1ぐらいは沖縄にいますから、観光客というわけではありません」という会話から始まりました。その時は参議院選挙の前でしたので、誰それが出馬すればいいんですけどねとか、誰それは今回こそ当選するだろうけど次回はないでしょうとか、県民ではないので選挙権のない僕に意見をぶつけていらっしゃいました。当然のように話題は知事選になり、「沖縄は人材難です」と嘆いておられました。「もっと学校が聞き分けのいい子どもばかり育てるんじゃなくてですね。自分で考えて自分で行動する!そういう人間をリーダーとして育てないと沖縄がどんどん他県や外国に乗っ取っていかれちゃうんですよね。県外企業だらけでしょ、今の沖縄」とも。僕は教育関係者ですので、耳が痛いなぁと思いながら頷いていました。すべて敬語でお話しになっておられたこともあり、話に説得力がありました。

 選挙や教育の話から「遊び」の話になりました。沖縄に来ると太るんですよと僕が言うと、「飲みますからねぇ」と笑顔でおっしゃいます。運転手さんはお飲みになるんですか?と聞くと「えぇ!毎晩飲んでいます」とおっしゃいます。それが生き甲斐で、仕事を頑張ってしているんです!と強い口調で。さらにゴルフの話題になると「週2回はラウンドしています」とおっしゃいます。週2回?それはまたお元気ですね。失礼ですが、おいくつですかと問うと「72歳です」とのことでした。

 僕の父は72歳で他界しましたので、あまりの違いに呆然としました。いやぁ、お元気なんです。週に5回タクシーを運転し、2回ゴルフをしておられるそうです。そして毎日ビールを飲んでいらっしゃるんだそうで、なんだか羨ましくなりました。宮沢賢治の「どうも、ちょうどよく働くことほど、体に良い事は無いですな」という言葉を思い出していました。僕もこの運転手さんのようになりたいなと強く思いました。

ゴルフコースで、もう一人

 実は沖縄でもうお一人、印象的なおじいさんにお会いしているんです。そして、どうも彼のことが忘れられないんです。彼とはあるゴルフコースで出会いました。僕が練習場でドライバーに苦戦していると、にこにこ笑いながらずっと見ていらっしゃいます。「こんにちは」と声をかけると、「振りまわしすぎだよ」と笑顔で。

 僕の練習球が全てなくなったので、おじいさんが練習レンジに入るのかなと思ったら、また別の人を見ていらっしゃいます。そしてゴルフのスウィングをしたり、周囲を歩いたりしておられたので、ついつい話しかけました。ゴルフ、お好きなんですか、と。

 「大好きだよ。ここにはね、毎日来とるんよ」とおっしゃるじゃないですか!えぇ!毎日ですか? 毎日? 毎日プレーしているんですか? 矢継ぎ早に質問すると、笑顔を崩さずに「毎日ここでゴルフをするのが生き甲斐」とおっしゃいました。年齢をうかがってもよろしいでしょうかと僕が言うと「92歳」とおっしゃいました。

 92歳のおじいさんが毎日ゴルフ場に来て、毎日プレーしているって、ゴルフをやったことがない方にはわからないでしょうけど、ほとんどアスリートですよ。僕もたいがいゴルフが好きだけど、毎日素振りをやるのでさえもハードで、背中やら腰やらが痛くなって、今日はもうやめとくかとなるのに、92歳が毎日ラウンドしているんですって!

 実に恥ずかしくなりました。一緒に行った興南高校の英語教員に「おい、このおじいさん、92歳なんやって」と言うと、彼も目をまん丸にしていました。おじいさんは、毎日やらないと上手くならないんだよと、何を当然のことに驚いとるんじゃとでも言いたげに、最後ににやりと笑いました。

 最近は沖縄の、特に男性の、平均寿命が短くなっているんですってね。でも、僕が出会ったおじいさんたちは元気で、こんな老後を送りたいなぁと僕に思わせてくださいました。僕にもいろんな夢や目標はたくさんあるのですが、そのうちのひとつに「92歳になってゴルフをする。そのために健康的な生活を送る」というのを加えました。

 今回出会った運転手さんにしても、ゴルフ場で出会った92歳のおじいさんにしても、非常に上品で格好の良い人生の先輩でした。58歳とは言っても若い僕に上から物を言うわけでもなく、だけれども「お前もこう生きてみろ」と言われているような気さえしました。何歳になっても元気で、笑顔で、明るく、愉快に、生きていこうと思います。

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木村 達哉

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作家、関西学院大学フェロー、新潟産業大学客員教授、NPOおきなわ学びのネットワーク理事。オリジン・コーポレーション所属。2021年3月まで灘中学校・高等学校教諭。奈良県出身。沖縄で愛犬さくらと一緒に年の3分の1ほどを過ごし、県内の学校や教育機関で英語授業や講演を行う。
趣味はゴルフ。そのわりに90を切ることができずに苦しんでいる。

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