【慰霊の日】「なぜ?」を起動して一緒に考える平和教育 沖縄戦を学んだその先へ

 

 慰霊の日が近づくと、沖縄戦を語り継ぐことの大切さが毎年のように課題として挙げられる。戦後77年目を迎え、戦争体験者の語り手が鬼籍に入ることも多くなっている現状は言わずもがなだが、沖縄戦について子どもたちに教え、子どもたちが能動的に歴史を学び、探求するきっかけを作る「平和教育」のアプローチも大きなトピックの1つだ。

 平和教育ファシリテーターの狩俣日姫さんは、沖縄県内の中高生や修学旅行で沖縄を訪れた学生に沖縄戦についてのガイドやワークショップを行っており、様々な工夫をしながら子どもたちの知的好奇心を刺激する方法を模索し、実践を続けている。その活動を突き動かすのは「沖縄戦を巡る記憶や平和への思いが大切で、残していきたいという気持ちは多くの人が持っていますが、それを“伝えるための技術”が伴っていないと感じることもあります」という問題意識だ。
 これまでフリーランスで活動していた狩俣さんは、今月設立されたばかりの編集プロダクション業と平和学習事業を手掛ける「株式会社さびら」に所属した。平和教育という場で、自身も学びながら伝え、そして教育の担い手を育てていくことも視野に入れている。

狩俣日姫さん

たくさんの声を聞き、拾う

 狩俣さんが実施する学習内容は、子どもたちが戦争や歴史について「自分の知識に引きつけて考えるという行為を起動させる」ことに重点を置いている。常に「中学生・高校生だった頃の自分がどうやったら寝ないか」と自問しながら平和学習のプログラムに取り組んでいるという。

 6月22日、狩俣さんはうるま市の天願小学校の体育館で行われた「平和集会」で、初めて小学生向けにプログラムを実施した。

 児童たちを3・4年生と5・6年生に分け、それぞれ授業1コマ分ずつの時間を使って沖縄戦について学ぶ。基本的な内容は、戦争体験者が描いた戦争の絵を児童たちに見せ、それを目にして感じることを出来るだけたくさん言ってもらうというもの。狩俣さんが1人で喋り続けるわけではなく、子どもたちの声を細かく聞き、拾い、そして一緒に考えるというスタンスだ。

 導入で狩俣さんは「『なぜ』という疑問を持って、『もし自分だったらどうするかな』ということを考えてください」と児童たちに呼びかける。

1人1人の体験と人生として考えること

 集団自決が行われたガマや沈没する対馬丸が描かれた絵をスクリーンに映して「この絵はどんな絵かな?」と質問を投げかけると、子どもたちからは低学年・高学年問わずたくさんの素直な言葉が飛び出した。

 子どもたちは手を上げて意見を募る時こそワイワイ騒いでいたが、絵の詳細な説明でとりわけ人命に関わるシリアスな部分に差し掛かるると、表情も眼差しも次第に真剣になり、一生懸命受け止めようとしている様子が分かる。

「沖縄戦では、4人に1人が亡くなりました。20万人という数字ですが、この全部が銃弾や爆弾によるものとは限りません。助かりたいと思って逃げる途中で船が沈んだり、逃げた先で食料が無くて餓死することもありました」(狩俣さん)

 戦死者の数字がただのカウントではなく、その1つ1つがそれぞれ違った1人1人の人生だったことに言及する。そして、戦争体験者が自分の辛い記憶を語り伝えることの意味についても「なぜ話してくれたのか、どんなことを言っているのか、そして、それを受け取った私たちはどうすればいいのかをこれからも考えていきましょう」と子どもたちに語りかけた。

「分かるための土台」を築く

 平和学習のプログラムは、実施する地域ごとでバリエーションをつけることもある。1人1人の戦争体験が違うように、地域でも当時の被害や状況に様々な濃淡があるため、そのディテールにも配慮することで「自分たちの地域が戦場になった時、どれだけの被害が及ぶか」という視点を設定し、学生たちの学びの精度を上げる。

 こうした学習は沖縄戦をちゃんと理解するために、いくつもある入り口の一例だ。「分かるための土台として、学ぶ姿勢を整えることと概要を知ることがまず必要なんです」と狩俣さんは強調する。事実を数字や写真・映像などのビジュアルで分かりやすく示すことも大事だが、同時に子どもたちが自ら手や頭を動かして平和について考えることで平和教育は深まっていく。

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