ボリビアでも豊年祭、感謝と豊作願い、エイサーや旗頭など

 

 沖縄の反対側に位置する南米のボリビアには沖縄県系人移住地のオキナワ村(コロニア・オキナワ)がある。ボリビア政府から正式な行政区として認められ、公式地図にもOKINAWAの文字が記されている。沖縄以外でオキナワの名称を持つ唯一の行政区である。

 オキナワ村には沖縄の行事や伝統文化が多く残っているが、中でも地域が最も大事にしている行事が豊年祭だ。今年は新型コロナウイルスの影響で中止になったが、例年であればオキナワ村の入植記念日である8月15日に合わせ、村を作り上げてきた1世へ感謝すると共に、豊作を願って行われる。

 ボリビアの豊年祭は、沖縄文化だけにこだわらず、現地の民族舞踊などボリビア文化も取り入れ、オキナワ村の地域文化として継承されている。そんな豊年祭の魅力や様子、豊年祭に込められた想いなどを聞いた。

豊年祭の時期が来ると、沖縄を思い出す

 沖縄で真夏日が続く8月、オキナワ村では真冬時期。

 「豊年祭の時期が来ると沖縄を思い出して、懐かしい気持ちになる」と話すのは1世のおばぁだ。

 会場の招待席には来賓や70歳以上の1世らの席が設けられ、おじぃおばぁは1番いい席で豊年祭を見ることができる。そして、広場を取り囲むように数多くのボリビア人が集まる。始まる数時間前から席取りをするボリビア人もいるほど、豊年祭は現地でも人気のイベントだ。

スペイン語が分からなくても楽しめる

 会場では頻繁に日本語が聞こえてくる。日本語とスペイン語の両方で司会進行が行われ、「祭」と書かれたハッピや浴衣を着た青年らの会場案内も時より日本語だ。これはオキナワ村の特徴といっていいだろう。そのため、スペイン語が分からない1世や県系人でも、より一層豊年祭を楽しめる。

受け継がれる沖縄の伝統文化

 はじまりは地域の三線愛好会とオキナワ第一日ボ学校の子ども達による三線演奏。

 敬老者と子ども達が一緒になり「安里屋ゆんた」や「てぃんさぐぬ花」などの沖縄民謡を弾き、浴衣に身を包んだ婦人らが演奏に合わせて歌う。

三線愛好会とオキナワ第一日ボ学校の生徒達による三線演奏(写真提供:Fernando Nakasone)

 三線の音色が会場に響き渡り、沖縄にいるような気分。1世のおじぃが「沖縄の三線を聞くと故郷を思い出すので、ずっと残ってほしい」と話していたのを思い出す。豊年祭で聞く三線の音はまた特別な音に感じる。

 三線の他にも、オキナワ第一日ボ学校の生徒たちによる琉球舞踊、婦人と敬老者らの手踊りが披露される。

谷茶前を踊る子ども達

豊年祭の名物は沖縄そば

 豊年祭の名物といえば、手作りの沖縄そば。オキナワ村の伝統行事には欠かせない沖縄そばは、終始行列ができるほどボリビアでも人気だ。沖縄から遠く離れたボリビアで、沖縄そばを食べながら豊年祭を見るとはなんとも不思議な感覚である。

ボリビアの伝統舞踊も楽しめる

 三線や琉球舞踊など、沖縄にいるような雰囲気から一転。ボリビア人による先住民の民族舞踊が披露される。色鮮やかな民族衣装とアップテンポの曲にボリビアにいることを気付かされる。

 「沖縄の文化だけでなく、ボリビアの文化も一緒に楽しめるのがこの豊年祭の魅力」というが、両言語が飛び交い、両文化が交流するオキナワ村ならではの催しである。

ボリビアの民族舞踊
ボリビアの民族舞踊

沖縄から中学生や高校生の訪問団も

 また、豊年祭の時期に合わせ、4年に一度のペースで沖縄から団体が来訪する。2014年は沖縄県の交流事業で高校生らが訪れ、2017年には伊江島の中学生が海外の伊江島出身者との交流を目的とした派遣事業で訪れた。

 伊江島の中学生は、オキナワ村の日本語学校の生徒たちと交流し、豊年祭では、伊江島のエイサーを披露、観客を魅了した。

 沖縄からボリビアに移住した1世や、ボリビアで生まれ育った2世にとって、沖縄の団体が披露する伝統芸能は新鮮さがあるようだ。

エイサーで太鼓の鼓動が鳴り響く

 最後は、琉球國祭り太鼓ボリビア支部のエイサー。下は5歳の子どもから大人まで、「ミルクムナリ」や「ジンジン」などダイナミックな動きで観客を魅了する。

 子ども達はパーランクーを持ち、目の前で踊るお兄さんやお姉さん達を見ながら練習したエイサーを一生懸命踊る。青年らは大太鼓を持ち、力強い太鼓の音とヘーシを鳴り響かせ、迫力ある演舞で会場を包みこむ。

パーランクーを持ち、練習したエイサーを踊る子ども達
迫力ある演舞で会場を盛り上げる青年たち

 オキナワ村で育った琉球國祭り太鼓のメンバーにとって「豊年祭で踊るエイサーと他のイベントで踊るエイサーは込める想いが違う」という。「オキナワ村を開拓し、すでに亡くなった1世たちへ感謝の想いが届くように太鼓を叩いている」といい、気持ちが入りすぎて、バチがおれることもあるようだ。

 ボリビアで受け継がれるエイサーは見ている人を惹きつけ、ボリビアの地に根付く沖縄魂が太鼓の鼓動を通じて心に伝わってくる。

旗頭で豊作を祈願、カチャーシーで入り交じる

 フィナーレは、ボリビア人や県系人が入り交じってカチャーシーだ。「大志」と大きく書かれた旗頭がひときわ迫力を増す。

旗頭を持ち上げる青年たち

 「青年よ、大志を抱け」。青年は大きな志を持って世に出よという意味が込められ、青年ひとりひとりが交代し、威勢良く高々と持ち上げる姿は勇敢でとても見応えがある。

来場者が入り交じり、カチャーシー

 豊年祭の最後は、夜空に高く打ち上げられた花火で幕を閉める。

地域みんなで支える村の伝統行事

 豊年祭は、沖縄からオキナワ村への移住者とボリビアの人々が一体となれることを記念して「小麦の日・豊年祭」と称して1997年にはじめて開催された。そして1世らは「脈々と受け継ぐ伝統行事として世代間で継承し、オキナワ村の文化として継承し発展させることを大事にしてきた」という。

 今やオキナワ村の村条例で村文化財に指定されている豊年祭は、沖縄の良いところを残しつつ、ボリビアの良いところ取り入れ、沖縄とボリビアの文化が融合した行事となり、オキナワ村には欠かせない伝統行事に発展している。

 また、三線や琉球舞踊、エイサー、旗頭など沖縄の伝統文化を受け継ぐ人がいて、地域、学校、青年、婦人、敬老者など伝統行事を裏で支える人がいる。地域住民が一体となって協力し合い作り上げる祭りは、地域行事を通して地域の絆を深め、さらに結びつきを強めている。

 時代とともに少しずつ形を変えながらも住む人々の根っこに流れる1世や2世への感謝の想いやゆいまーる(助け合い)の心は変わらず、これからも地域ひとつになって、継承してきた伝統行事を先人らの魂と共に次世代へ受け継いでいきたいものだ。

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