キムタツコラム①沖縄の高校生に無料で英語を教えている理由

 
高校生対象のセミナーの様子=2018年、那覇市の興南高校

 国内有数の進学校、灘中学校・高等学校(兵庫県)の元英語教員で「夢をかなえる英単語ユメタン」シリーズや「東大英語基礎力マスター」シリーズなど数多くの有名参考書を手掛けている作家の木村達哉さんのコラムが今回から始まりました。 「NPOおきなわ学びのネットワーク」 を立ち上げて沖縄の生徒の学びを支援しているなど、沖縄に縁深く活動している木村さんに、教育に限らずさまざまな角度からコラムを書いてもらいます。


灘校を辞めて専業作家に

 「HUB沖縄でコラムの執筆をすることになった」とFacebookに書いたところ、たくさんの方々、特にウチナーンチュの皆さんから愛情深い、また感謝の言葉がぎゅうぎゅうに詰まったコメントをいただいた。今年の3月、長年勤めた灘校を退職し、本が売れない日本ではもうすっかりお会いしなくなった専業作家となった。

 灘校教員時代から講演などでよく沖縄には通っており、今までは1年の3分の1ほどを沖縄で過ごしている。「沖縄にはしょっちゅう戻ってくるんだったら知り合いが多いほうがいいでしょ」と声をかけてくださったジュンク堂書店那覇店の店長が、沖縄の芸能事務所オリジン・コーポレーション代表の首里のすけさんを紹介くださり、それがきっかけで僕もオリジンに入所することになった。

 また、2015年から続けている「NPOおきなわ学びのネットワーク」での学習支援活動も、コロナが明ければという条件付きとは言え、続けていくことになり、すでに興南・那覇西・開邦といった複数の高校から講演の依頼が入っている。ふらりと入った居酒屋のおやじさんに「あんた、琉球新報で見たよ」と声をかけてもらってオリオンを1杯ふるまっていただいたり、浦添の公園で見知らぬ女子高生から「最近、首里高校に来ない!」とお叱りを受けることになったり。僕はどうしてこんなにも沖縄の一部になってしまったんだろう。

 スティーブ・ジョブズの言う「connecting the dots(点と点をつなぐ)」が誰にでも当てはまるのだとすれば、沖縄での活動という「点」につながるのは、間違いなく2011年の東日本大震災と1995年の阪神淡路大震災の2つである。僕は被災者ではない。しかし、僕に大いなる影響を及ぼした被災者がいる。灘校時代の元同僚で、福島に移住をした前川直哉君である。彼のひと言がなければ、そして2つの地震がなければ、僕は沖縄にこんなにも関わることはなかっただろう。

人生に影響を及ぼした元同僚・前川君

 2013年6月末日。前川君と僕は車の中にいた。野球の神戸市中学校総合体育大会の初戦で負けた直後、生徒たちを帰宅させ、さて我々も帰宅するかと僕の車に乗り込むや、彼が切り出した。「木村先生、もう先生と一緒に野球をすることはなくなるかもしれません」と。

 事情を聞くと、その年度いっぱいで灘校を退職し、原発事故の被害(多くは風評被害)で苦しむ福島に移住し、「NPOふくしま学びのネットワーク」を立ち上げると言う。彼は阪神淡路大震災の被災者である。自分の経験を福島で活かすことができるはずだと考え、安定した生活を捨てるというのである。しかし、彼の被災経験が、そして学びが、福島で活かせられるのであれば、こんなに素敵なことはない。

 僕の心にさざ波が立った瞬間だったように思う。「まだ親にも校長にも言っていないんですよ。先生が最初の相談相手なのですが、僕の考えをどう思いますか」と尋ねる彼の横顔に「自由に生きるのが一番じゃないか」と答えると、「先生ならきっとそうおっしゃると思っていました」とにっこり微笑んだ前川君がさらに言葉を続けた。

 「ところで先生、福島の子たちに英語を教えてやってもらえませんか。お金は交通費さえお渡しできないんですが」と。わくわくしながら「もちろんかまわんで。君からお金をもらおうなんて思わんわ」という会話を会場校の駐車場で交わしたことを鮮明に覚えている。

 その後、予定通りに彼は福島に移住し、高校生無料セミナーを年に数回開催するようになる。そしてこれも予定通り、そのたびに僕も福島各地に赴き、子どもたちに学びの大切さを、そして学びが福島県を支えることになる理由を、説くことになった。ただ、念のために書いておくと、福島県の子どもたちがそれまで以上に東京大学をはじめとする難関大学に合格するようになったのは、僕たちのおかげではない。僕たちの勉強会に福島県の先生方が多数参加され、指導法を学ばれたからである。生徒たち以上に、勉強会には先生方が参加されていたのである。熱気あふれる勉強会が今も続いている。

興南学園・我喜屋理事長らの協力でNPO設立

 ある勉強会が終わったあと、前川君が僕になにげない言葉を投げかけ、それが僕の心のど真ん中に突き刺さった。

 「先生、沖縄が好きなら、沖縄でもこういう活動をすればいいのに」

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