コザ暴動は「反米暴動」だったのか① 前兆

 
復帰前のコザのプラザハウス前。沖縄県公文書館所蔵の写真

  今から51年前の1970年、米国の施政権下にあった沖縄で起きたコザ暴動は、基地の街であったコザで多くの米軍車両などが焼き討ちされた事件である。背景には、米軍に対する住民の積もり積もった不満があったとされるが、果たしてこの事件は「反米暴動」だったのか。当時、琉球検察の検事として事件の捜査にも関わった高江洲歳満氏がこの事件について論考する

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 沖縄が本土に復帰する2年近く前に当たる1970年9月18日午後10時3分に糸満市糸満999番地先道路上で米海軍兵トミー・エル・ワード(以下「ワード」)が運転する車を金城トヨ(54歳)に接触させて死に至らしめた事件が起きた。

 当時の琉球では米兵による死亡事故が多発していた。その日は他にも午前9時15分頃に豊見城村名嘉地の道路上で米兵ソーホード・ウォルターが運転する車を高良カマ(76歳)に接触させて死に至らしめた事件も起きた。

 この他にも至近の死亡事故だけでも、67年8月2日午後3時30分ころ、具志川市栄野比で米兵運転の車が金城貞雄(16歳)を轢いて死に至らしめた事件、同じ年11月8日午後1時過ぎ具志川市兼箇段で米兵運転のクレーン車が比嘉芳江(3歳)を轢いて死に至らしめた事件、69年5月6日那覇市旭町職業安定所前の道路で米兵運転のジープが知名トシ(当時49歳)に接触して死に至らしめた事件などが起きていた。

相次ぐ交通事故に不満高まる

 当時の琉球裁判所には米兵に対する裁判権がなく、これら事件を琉球の裁判所で処罰することは出来なかった。琉球人の住む所での事故で、琉球人が被害者だのに琉球裁判所が処罰できない、「沖縄人の命を何と思っているのか」、「差別だ」そんな声が琉球人の間に広まり、その声が米兵凶悪犯罪糾弾協議会(以下、協議会)を結成させた。

 琉球人居住区で米軍憲兵が事故の実況検分を行うと、そこに琉球人が集まり、「犯人を刑務所に入れろ」「証拠を隠滅するな」などの罵声を浴びせることが倣いとなっていた。

 糸満市で起きたワードの事故現場にも人が集った。

「県民の皆さん、米人車はカーブにも拘らず100キロ以上の暴走で尊い命を奪った。米軍人の無謀運転を許すな。二度と無罪にするな。裁判は民に移せ」
「この現実を見よ、今こそ県民たちあがれ、この米軍は沖縄婦人の生命を奪っている」
「県民の皆さん、私達は道も安心して歩くことが出来ません。この際米軍による犯罪を県民の裁判に移せ」

 現場ではそう書かれたビラが配られたばかりか、読み上げられもした。

 騒然とする中で実況検分が終わり、憲兵がレッカーで加害車両を移動しようとした時、「車を持って行って証拠隠滅しようとしている」「犯人の責任も賠償の問題も片付かないまま車を片付けようとするのは許さない」との声が飛び、それを合図に琉球人が事故車と憲兵を取り囲んだ。

 約3時間、「車を移動する」、「移動させない」の騒動が続いたが、琉球警察が間に入り、憲兵を立ち去らせた。車は現場に残ったままだった。

 翌19日午後3時から糸満町文化会館で協議会が主催して、公正な裁判、完全補償を要求する集会が開かれた。集会には伊敷糸満町長、ワードの上司ブラウン司令官が列席し、人民党、民青、教職員組合等からも多数が参会した。

 参会者はこもごも司令官に対し、「遺族に対して直ちに謝罪せよ、ワードの裁判を町民と遺族に公開せよ、遺族に対し速やかに完全な補償をせよ」との要求をつきつけ、部隊長は要求に沿うよう努力することを約した。

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