世界遺産登録で北部に滞在型の観光を 苦境の今だから始める取り組み
- 2021/5/12
- 経済
「コロナで厳しい状況のなかだけに、やはり非常に期待しています」
国際自然保護連合(IUCN)が10日、「奄美大島、徳之島、沖縄本島北部及び西表島」について世界自然遺産への登録を「適当」と勧告したことについて、名護市にある北部観光バスの川添博明専務はそう顔を綻ばす。川添氏は、本島北部の観光業界の34の企業や団体がつくる「やんばる観光推進協議会」の会長でもある。
沖縄本島北部を含む4地域には、ヤンバルクイナやイリオモテヤマネコ、アマミノクロウサギなど絶滅危惧種95種を含む動植物があり、世界的に見ても生物の多様性に優れた地域である。正式な世界自然遺産への登録は、7月に開催される第44回世界遺産委員会拡大会合で決定されるが、IUCNが「適当」と勧告したことから確実視されている。
「自分でもよくやってるなと思う」
登録はコロナ禍で苦境に陥っている本島北部の観光業界にとって明るい兆しとなるのか。まず、観光業界が置かれている現状について触れておこう。川添氏は自らの会社である北部観光バスを例に「最悪の状況だ」と説明する。
「うちは55台のバスを保有していますが、コロナの感染拡大とともに稼働率はガクッと落ち込み、GoToキャンペーンでいったん40%にまで回復したとはいえ、その後のさらなる落ち込みで、いまは10%台しかありません。2月のプロ野球のキャンプシーズンこそ、球団関係者の送迎で多少仕事がありましたが、3月以降は特に厳しい状況です。自分でもよくやってるなと思うほどです」
バス運転手らには国の雇用調整助成金を活用して休業してもらっているが、この助成金がなければとっくに会社の体力がなくなっていると明かすほどの苦境だ。それだけに行政からの支援が後手に回っていることが歯がゆいという。
「飲食業界には時短営業への協力金が県から支給されますが、観光業界にはこうした支援が全くありません。どうしても飲食業界ばかり手厚いと映ってしまうのも事実で、観光業をリーディング産業だといいながら、県がどうしたいのか見えてきません。バス事業者の支援のためとして、昨年11月から今年1月にかけて『おきなわ彩発見バスツアー』という貸切バスを利用した旅行商品への補助事業を県が実施しましたが、これもわれわれ事業者側の意向を十分に聞き取って始めたものではなく、効果がどれほどあったのか疑問です」