沖工3年、小中野球部へカウント盤製作 前主将、野球への恩返し
- 2021/1/14
- エンタメ・スポーツ
県立沖縄工業高校(那覇市)情報電子科の3年生13人が卒業製作としてリモート操作できる野球のBSO(ビーエスオー)ボードを2台完成させ、このほど近隣の少年野球チームの真和志ヤンキースと南風原中学校に贈呈した。ボール・ストライク・アウトのカウントをリモートでランプ表示させるこのボード。審判が直接カウント表示できる画期的な仕組みで、これまでカウント係をしていた保護者の負担を軽減し、子どもたちがより野球に集中できる環境をプレゼントした。ボード製作に込められた思いを真和志ヤンキースへの贈呈時に取材した。
大粒の涙から
今年3月から4月にかけて行われた県高校野球春季大会ベスト4(準決勝、決勝は新型コロナの影響で行われず)。夏の県大会のシード権を2年連続で勝ち取った沖縄工業。チームの中心にいたのが前主将でリードオフマンの國吉涼介(くによし りょうすけ)君だ。夏も甲子園がコロナ禍でなくなり、バラバラになりかけたチームを必死にまとめるも、7月の夏の県独自大会では初戦の2回戦で、優勝した八重山高校に敗戦。試合後は大粒の涙をこぼしながら、ともに最後まで戦った26人の3年生への感謝と、後輩たちに「甲子園に行くという気持ちを忘れないでほしい」というメッセージを残した。去年夏、筆者にとって忘れられない球児の1人だった。
その後、まだ彼が気持ちを整理しきれず野球は高校で引退するということを聞いた。走攻守揃った素晴らしいプレイヤーなだけに気になっていた。そんな中、彼が同じ情報電子科の仲間とBSOボードを製作しているという話を聞き取材の機会を得た。
野球への感謝を形に
久しぶりに会った前キャプテンは坊主頭だった夏から、少し伸びた髪と満面の笑顔で迎えてくれた。第1希望の県内企業へすでに就職が内定しBSOボードの製作に汗をかいていた。
「(夏は)悔しかったし今までやってきた意味があったんだろうかとかそういったことを考えた時もありました。それでも、野球が好きという気持ちは変わらなかったです。幼稚園から12年間今まで野球をやってきて、そこで引退した時に何か野球に恩返ししたいなと思いました。」
國吉君とともに製作した仲間の一人、宮里盛誉(みやざと もりたか)君は手元で握りやすい形にこだわり、3Dプリンタでのオリジナルリモコン作りを担当した。
「地域貢献にもなるといった先生方からのアドバイスもあったし、僕も野球が好きでボードづくりに挑戦しました。去年の先輩もボード製作をしていたのですが、贈呈できるまでにはいかずに、自分たちはそれを改良して、改良してという感じでした。より進化したものを後輩たちも作ってくれると思います。」
BSOボード製作の理由
1月8日、那覇市の軟式少年野球チーム「真和志ヤンキース」に贈呈したのは約50cm四方でステンレス製のボードだった。雨水やボールが当たる衝撃に耐え、かつ子どもたちでも持ち運びしやすい大きさや重さという工夫がなされているが、一番の目玉は”審判が手元のリモコンでカウントを入力できる”というものだ。無線通信技(Bluetooth)を使っているが、わずかな配線ミスでも、ボードを動かした時に生じる少しの配線ズレでもLEDランプが灯らなくなる。繊細かつ完全な作業が要求される製作にはコロナ禍での休校も挟み半年あまりの時間がかけられた。
少年野球では子どもたちの保護者が審判やカウント係をすることが多い。送迎やコーチたちとともに練習や大会でのサポートをする当番などもある中で、この負担が保護者の野球離れの原因ともなっている。子どもが野球をしたくとも面倒がみられないからさせられない。その現状に少しでも良くしたいと、カウント係が必要なくなるこのボード製作と贈呈が考えられ、実現した。
また高校野球ではピッチャーのケガ防止のため、1週間で500球以内という球数制限が設けられているが、少年野球(軟式)でも、6,5年生は1日70球までなど決まりがある。ボードのおかげで正確な記録がつけやすくなるという声も、真和志ヤンキースの指導者から上がっていた。
野球を通しての成長
4月からは社会人として、野球からは少し離れることになる國吉君は、BSOボードの操作テストを兼ねてプレーする子どもたちを笑顔で見守っていた。
「とても楽しそうに野球をやっている姿を見てうらやましいなと。 もう1回(自分も)やりたいなと思いました。小学生が野球を思い切り楽しんでくれたら嬉しいです。」
沖縄工業情報電子科の教員であり野球部の知名淳(ちな あつし)監督は、コロナ禍で翻弄されながらも高校生活を全うしようとしている國吉君を「尊敬に値する」と話した。教え子たちを立派に巣立ちさせるべく、野球でも、ボード製作でもアドバイスしながら導く姿と思いに敬意を表したい。
3年前、沖縄工業野球部は学校グラウンド近くの住宅地で火災が発生した際、いち早く消防に連絡。消防車が駆けつけるまでの間、部員たちで協力し、近隣の人たちの安全確保や学校のホースをつなげて初期消火に当たるなど延焼防止に貢献し、那覇市と日本高野連から表彰を受けた。野球を通して考える力、行動する力、思いやりの心を育んできた中でのファインプレーだと感じた。
甲子園出場はその挑戦権すら得られなかった今年度の3年生。けれども例年とは一味違う成長を見せてくれた。彼らが直面した悔しさも、改めて感じた野球への思いも今後の糧となるに違いない。