沖縄の医療現場を救いたい。「ゆいマスクプロジェクト」発起人の想い
- 2020/5/11
- 経済
「病院の使い捨てマスク不足解消の相談」
理学療法士の玉城潤氏のもとにそんな相談文が届いたのは、4月10日のことだった。
相談者は沖縄県内外で数店舗の飲食店を経営する百田行宏氏。沖縄県内の経営者や会社員たちが集う「沖縄の5年後10年後を考える会」のグループチャット宛に送られたメッセージだった。
そこに書かれていたのは、医者である百田氏の妻より語られたマスク不足の現状。マスクが不足していること、1枚の使い捨てマスクを数日間に何度も使い回していること、それにより現場で働く医療従事者が不安を感じているという内容だった。そしてそれを知った百田氏は“マスクを寄付したいが誰か良い方法を知らないか”と呼びかけた。
メッセージを見た玉城氏は、同日10日に「クラウドファンディングで集めましょう」と提案。その発言により、玉城氏が発起人となり、沖縄の医療現場にマスクを届けるプロジェクト「ゆいマスクプロジェクト」がスタートした。
ゆいマスクプロジェクトとは
「ゆいマスクプロジェクト」とは、沖縄県内の医療現場にマスクを届けるためのクラウドファンディング。医療現場は今、本来1日に何度も交換するはずの使い捨てマスク(サージカルマスク)を、3日間使い回し使っているのが現状だ。
このようなマスク不足が起こる原因には、新型コロナウイルスが「世界的な感染症」であることが挙げられる。
通常サージカルマスクは、日本国内の大手卸業者4社が海外から輸入し、全国の医療現場に届ける仕組みとなっている。だが今回、世界的なマスク不足に伴い、価格高騰やマスクの製造が追いつかない等の理由で、卸売業者が大量に輸入できなくなってしまったのだ。
それにより医療現場には「(業者を介する場合)10倍近い価格の高騰」と「(業者を介さない場合)いつもと違う取引先から購入する際の仕入れリスク」の2つが発生し、マスク仕入れの金額及びリスクが高まってしまったのだ。(実際に、いつもと違うルートから仕入れたマスクの質が悪く、廃棄せざるを得なくなった例もあるそうだ。)
そんな課題に対し「ゆいマスクプロジェクト」では、下記のフローでマスク・医療用着衣を医療現場に届けるクラウドファンディングを立ち上げた。
①海外5ルートよりサンプルを取り、医療従事者チェック済みのマスクを輸入
海外の輸入ルート5つ(リスク回避のためルートを分散)よりサンプルを仕入れ、新型コロナ感染認定ナースによるチェックを実施。それにより「新型コロナウイルスの医療現場で使用可能」と判断されたものを輸入する。(ちなみにこの時点で輸入費が発生するため、プロジェクトメンバーが立て替える形で精算している。)
②クラウドファンディングで資金を集め、高騰分・リスク対応にかかるお金を補う
ゆいマスクプロジェクトの目的は「マスクの寄付」ではなく「より多くの病院にマスク及び医療用着衣を届けること」であるため、寄付してもらったお金でより多くのマスクを購入し、そのマスクの「高騰分」「リスク対応費」を差し引いた金額を病院側に支払ってもらう形で提供する。(それにより、より多くの病院にマスクを届けることが可能となる)
発起人玉城氏の想い
百田氏のグループメッセージに即座に反応し、手を挙げた発起人・玉城 潤(たましろ じゅん)氏にプロジェクトについての想いを取材した。
-どんな気持ちで手を挙げたんですか?
「困っているのなら、やろう。そんな感じでしたね。自分にできることがあるならという気持ちで、あまり深く考えずに手を上げました。クラウドファンディングもやったことないけど、いいや、やってみようと。」
-メンバーはどうやって集めたんですか?
「チャットでメッセージを見ていた『沖縄の5年後10年後会を考える会』のメンバーと、もうひとつ僕が所属する医療従事者の卒業教育を支援するチーム『O-project』のメンバーにも協力をあおりました。その結果、スムーズに医療関係者、経営者、行政職員など、約20名ほどのボランティアスタッフを集めることに成功しました。」
-メッセージからプロジェクト開始までかなりスピーディーな印象ですが、実際どれくらいでスタートしたんですか?
「開始したのが4月23日なので、2週間くらいですね。もう少し早くやりたかったんですが、思ったよりクラウドファンディングの審査に時間がかかってしまって・・。」
-通常より時間がかかったということでしょうか?
「はい。実は今、マスク詐欺が横行しているらしく、思っていたより審査に時間がかかってしまったんです。とにかく“急がなきゃ”“早くやらなきゃ”と必死だったので、そこに時間がかかるのはもどかしい気持ちでした。」
-開始して数週間ですが、現在はどれくらい集まっているんでしょうか?
「今日(2020年5月5日14時48分)時点で518万円が集まっていて、9施設5万6000枚のマスク提供が実現しました。プロジェクトメンバーはもちろん、沢山の方が支援・拡散してくれて多くの資金が集まりました。この場を借りて、感謝の気持ちを伝えたいです。」
-病院からの反応はいかがですか?
「自分が感染してしまうことへの不安や、家族にうつす恐怖が解消されたという声、着衣が足りなくて患者さんに心配させてしまうことがあったけど今は安心して働ける、など、たくさんの御礼の言葉をいただいています。」
現在、クラウドファンディングのゴール設定は1000万円。すでにゴール設定の半数以上が集まっていることになるが、すでに持ち出している資金や今後の対応を考えると、まだ足りない状態にあると玉城氏は話す。
現在設定する1000万円を早々にクリアし、一刻も早く沖縄県内中の病院のマスク不足を解消したいと話した。今後はこれから届くマスクの配分や、このプロジェクトをどのようにして広めていくかなど、日々の課題に向き合っていきたいと語った。
ゆいマスクプロジェクト