キムタツコラム②誰かの幸せにつながらない勉強など存在しない

 

 国内有数の進学校、灘中学校・高等学校(兵庫県)の元英語教員で「夢をかなえる英単語ユメタン」シリーズや「東大英語基礎力マスター」シリーズなど数多くの有名参考書を手掛けている作家の木村達哉さんのコラムが今回から始まりました。 「NPOおきなわ学びのネットワーク」 を立ち上げて沖縄の生徒の学びを支援しているなど、沖縄に縁深く活動している木村さんに、教育に限らずさまざまな角度からコラムを書いてもらいます。


 先日、RBCiラジオ「ナガハマヒロキの週刊リッスン」というラジオ番組に呼んでいただき、勉強について話す機会をいただいた。その後、沖縄のたくさんの方々からご連絡を頂戴し、一気にFacebook友達やYouTubeチャンネル(公式キムタツチャンネル)の登録者数が増えたのは嬉しい限り。勉強についての認識に共感してくださった方々が、僕の愛する沖縄にたくさんいらっしゃることに心浮き立つ思いである。HUB沖縄でも勉強について書かせてもらう。

一つの側面「勉強は経済活動」

 日本全国をまわり、数多くの学校を訪問させていただいてきた。北海道でも東京でも、そして沖縄でも、僕の「勉強が好きな人は手を挙げて」という声に反応する子どもたちは少数派である。逆に「じゃあ、嫌いな人は?」という問いには極めて多くの子どもたちが高々と手を伸ばす。その子どもたちの中に中学時代や高校時代の僕がいれば、真っ先に手を挙げていることであろう。

 勉強って何だろう。

 まず、間違いなく勉強は経済活動である。簡単に書くと、お金儲けのための活動である。勉強がお金儲けにつながると書くと日本人の多くは眉をひそめるかもしれないが、そういう側面があることは知っておいたほうがいいだろう。大卒の生涯賃金と高卒(専門学校卒も含む)の生涯賃金では数千万円もの差があると言われている。また、同じ大卒であっても、給与が高くて休みが多い有名大企業からの求人は難関大学にしか届かない。さらに言うなら英語が正しく話せる学生が海外の企業を選んで実力を発揮できれば、若くして数千万円の年収を手にすることになる。言うまでもないが、どんな企業であっても組織であっても、しっかりと勉強して自分を鍛えてきた人材を求めているのであるから、当然と言えば当然であろう。勉強はカネにつながるのである。

果たして、カネのためだけなのか?

 では、人はカネのために勉強をするのだろうか。勉強をする理由はカネがもっと欲しいからなのだろうか。僕たちは、本当にカネが欲しくて朝から晩まで命を削りながら激務と闘っているのであろうか。十分に稼いだはずの人たちが、それでも働き続けるのはどうしてなんだろう。

 野球を勉強した少年が成長してプロ野球選手となり、大輪の花を咲かせた。興南高校の進路室で「宮城君、えらいインステップで投げるんやなぁ。故障しやすいから気をつけるねんで」と声をかけたのは4年ほど前だったか。日本シリーズで投げる彼をテレビで拝見し、その成長した姿に涙が溢れるほど幸せな気持ちになった。今季のパ・リーグ新人賞に輝いたオリックスの宮城大弥投手である。

 アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)で電子工学を勉強した前田智大氏が日本の画一的な教育に疑問を抱き、株式会社Minedを立ち上げた。自分が本当に興味のあることを学び、その結果としてアメリカのようにイノベーションを起こすリーダー人材を輩出したいという彼の思いがスコラボというオンライン学習サービスを展開し、多くの子どもたちと保護者を笑顔にしている。灘校の自由な勉強スタイルが子どもたちの幸せにつながっているのであれば、彼の英語授業を担当した僕としては欣幸の至りである。

 街を歩くとさまざまな勉強に出会うことになる。医学を勉強した人たちが患者に安堵をもたらし、法律を勉強した人たちが弁護士や司法書士としてクライアントを幸せにする。物流や経営を勉強した人たちが会社やお店を経営することで客を笑顔にし、そして文章や絵を勉強した人が、本を通じて読者に教養を与える。音楽を勉強した人たちのおかげで、僕たちの気持ちがやわらかくなる。

 かく言う僕は英語や教育を勉強してきた。12月21日に県立那覇西高校さんと南城市教育委員会で講演や勉強会を開催し、26日には那覇市教育委員会主催の講演がある。那覇西高校では生徒たちに英語の勉強法を、南城市では英語科の先生方に英語の指導法を、そして那覇市主催の講演では全国の方々に「しあわせに生きるために」という演題で人生を、それぞれ語らせていただくことになっている。自分の勉強がそれぞれの参加者の皆さんの笑顔につながればいいなと願っている。

「人さまの幸せにつながっていない勉強など存在しない」

 さて、再度書く。勉強って何だろう。

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