コザ暴動は「反米暴動」だったのか② 判決への非難一色
- 2021/9/12
- 社会
さらに、沖縄弁護士会下里恵良会長も、「理由のない裁判とは全く呆れたものだ、無罪という結果については証拠関係が判らないので何とも言えないが、無罪なら理由がある筈、当然理由は明らかにしなくてはならない、不当な裁判だ」するなど、県内の各団体や政党も非難一色であった。
新聞は、「軍事裁判」のコラムを掲載。「県民を欺く儀式か、無罪ありえない事件に無罪」との見出しで判決理由も示されていないことを非難、協議会を始めとして復帰協、人権協会、行政府、立法院与野党、さらには日本国国会で人権無視の無罪判決に対する動きが出ていると伝えた。
ある法曹関係者は「裁判は仲間同士で構成され、制限非公開によってデッチ上げが露呈され、あらゆる状況から無罪はあり得ない」「判決理由を明らかにされなかったのは米軍基地維持のため沖縄人を虫けらの様にしか考えない事実を示したもので、沖縄人の人権がこんなにも無視されて良いのかと問い、米軍は裁判を公開すると約束したのに遺族5人と報道関係に傍聴を許しただけ、裁判は軍事政策上の必要で開かれたもので、米軍法会議は独立したものではない」と述べた。
判決は違法、不当だとの認識が琉球中に広まった。
司法制度の違いが不当判決との不満を招いた
軍法会議の判決を非難する記事が出た数日後、OSI(Office of Special Investigation)のクスミ次長が検察庁を訪問した。OSIは空軍の機関で犯罪捜査を行うことを職務としている。そこの長は現役の将校がなるが、次長は軍属がなる。クスミ氏は日系二世のアメリカ人で十数年その職にあった。
クスミ氏は琉球新報の記事の英訳分を示して、琉球警察本部交通部長の大城宗正による「運転手の過失はあるのに無罪とは大変な問題だ」との発言について、「軍法会議の審理に立ち会ってなく、審理内容を知らないのにどうしてこんなことが言えるのか」と言い、また、琉球政府知念副主席の「交通事故は人の業では防げない時にしか無罪となり得ない」との談話にも、「聞いた話を基に非難するのは如何なものか、それに、結果が防げたかどうかは審理の対象になっていない」と述べた。さらに、沖縄弁護士会の下里恵良会長による「理由のない裁判とは全く呆れたものだ」との非難にも、「弁護士がアメリカ法では陪審では事実の存否の認定に理由は必要でないことも知らないのか」など談話の不正確なことを指摘した。
クスミ氏は、謂われないことを取り上げて公正な判断をした軍法会議を非難することに、多くのアメリカ人が許せないと言っていることを伝えて、軍法会議の判決は不当違法との報道を打ち消す方法はないかと聞いた。
陪審の歴史は古く、13世紀に遡る。かつてイギリスでは王の裁判官が理由をつけて「ない事実」を「ある」とし、「ある事実」を「ない」として無罪を有罪に有罪を無罪にした苦い経験から、事実の存否に理由をつけない制度が生まれた。理由をつけることは偽りの判断につながるとして、その弊害を取り除いたのである。
英米法では事実は「あったか」、「なかったか」であり、陪審員は有罪か無罪かを宣告するだけで理由は述べない。職業裁判官の判決では法律上の主張に対しては微に入り細に入り理由が書かれる。
陪審では国民の代表陪審員が事実を認定し、刑罰権を行使する。陪審裁判の場合、職業裁判官に事実認定権、刑罰権がない。
これらの事実から、多くのアメリカ人は陪審の評決が非民主的、民主的ルールに沿っていないとの非難を的外れと批判していたが、それらは声なき声に過ぎなかった。
無罪判決は沖縄人の人権を無視した不当、違法との声が広がりを見せるなか、この年の12月、コザでの出来事へとつながっていく。