沖縄経済オンラインシンポジウム~新しい時代の沖縄をどう生きるか~(下)
- 2020/6/13
- 経済
先日にひき続き5月29日に開かれた「沖縄経済オンラインシンポジウム~新しい時代の沖縄をどう生きるか~」の第二弾をお伝えしたい。なお、このシンポジウムについてのだ一回目の記事は、こちらを参照いただきたい(https://okinawanewsnet.jp/?p=656)。
シンポジウムのパネリストは以下の5人である。
・上間喜壽氏(株式会社上間フードアンドライフ代表)
・小宮仁至氏(ファンシップ株式会社代表)
・友利真由美氏(株式会社エレファントライフ代表)
・比嘉良寛氏(株式会社Payke取締役)
・藤本和之氏(株式会社琉球オフィスサービス代表)
・司会:榊田えみ氏
第二部「新たな沖縄の強みを創出し、収益につなげる」
第二部では、インバウンド拡大、リスクマネジメント、テクノロジーの活用法など、新たな時代の顧客獲得、各分野の活性化について、それぞれの立場から見た沖縄が語られた。
比嘉氏「観光産業の代替になる産業をすぐ生み出すのは難しい。トレーサビリティを普及した経済対策が理想」
比嘉氏は、「沖縄観光」は毎年1000万人ほどの人が訪れており、その売り上げを埋める規模の産業をすぐに生み出すことは難しいだろうと考えている。
幸い沖縄は島国で出口と入り口が明確なため、トレーサビリティ(物品の流通経路が追跡可能な状態・仕組み)を普及しやすい。感染者の追跡手法を明確にすることで、観光客が安全に観光することはもちろん、県民が納得して観光客を受け入れられるようになるのではと考える。
今回、沖縄に住む人々はかなり自制心が高く、県全体が一丸となって感染を封じ込めることができたと比嘉氏は実感している。この県民性を考えると、観光産業復旧に向けた前向きなトレーサビリティへの協力を十分に仰げるのでは、と期待を話す。
また、沖縄には台湾が近いという利点もある。コロナ対策優等生と報じられる台湾は、現在感染者がほぼいない状態(6月10日時点では新規感染者0人)が続いており、双方の安全性や感染した時の対応など基礎条件をしっかり取り定められれば、沖縄と台湾間のみで飛行機を飛ばすという発想も可能なのではないか、と自身の考えを語った。
友利氏「なんとか今を持ちこたえれば、将来的には価値の高い土地になる」
沖縄はブランド性が高い日本としてみても、非常に魅力的な島だと世界から認められている。実際に去年くらいまでは、離島や北部の不動産は、購入を検討する半数が外国人だったと友利氏は語る。
中でもアジア人からの人気が特に高かったようで、昨年後半は台湾人が積極的に購入していた。小さい島でありながら海がきれい、観光分野においての将来性がある、安全でありながら飲食やサービス、不動産が安いなどが理由として挙げられた。
友利氏は「沖縄はよくハワイと比較される」と話す。歴史的な部分や立地面、島が持つ方向性などが非常に似ているということだった。だが沖縄に比べ、ハワイの不動産は非常に高い。
今はまだ復活まで時間がかかるが、今この時期を耐え抜くことで、将来的には価値は高まるだろうと友利氏は予測した。
上間氏「地元と観光向けの2極化された収益源を、分散させるアイディアが必要」
今後の沖縄での収益の生み出し方について、上間氏が回答した。まず上間氏の担う飲食業でいうと、大きく分けて「地元向け」「観光向け」のビジネスがあり、多くの店舗・企業でその2つはハッキリ分れていた。今回の件で、収益を色々な方向に分散させておかないと危険だということを痛感したと話す。
観光客が増え続け、バブルのような状態だった「観光向け飲食店」が一番打撃が大きかった、コロナで客足が途絶えた時に、どこから収益を取るかという点に頭を悩ませた経営者は多いだろう。このタイミングで県民向けにキャンペーンを行ってしまうと「在庫が余ってるから県民に安く売っている」と捉えられることもあったと、難しさを伝えた。
また、今回は観光向けに打撃が大きかったが、「地元向け」ビジネスについても考えていく必要があると上間氏。自身の事業に関し「うちは県民向けにフォーカスしていたため、観光向けを取りのがしている懸念がずっとあった」と話し、「地元向け」は高い価格付けが厳しいと懸念点を伝えた。
今後は「地元向け」「観光向け」双方にメリットデメリットがある中で、両方を獲得するために「リーズナブル」さと「付加価値の高さ」という相反するものを”どう攻略するか”が肝となるだろうと予測。そこが企業の腕の見せ所となるだろうと話した。
藤本氏「経営者の変化が必要。しっかり利益を出し、しっかり分配する文化をつくっていきたい」
以前東北地方や関西に住んでいた藤本氏は、沖縄以外に住んだ経験がある中で「沖縄は非常に商売に良い場所」だと話す。ブランド力があり、文化も良い、ご飯も美味しく観光客が多く、そして人がそもそも少なくない上にどんどん増えている。
これらを考えると「商売をやるマーケットとして沖縄以上に恵まれているところは地方では見当たらない」と言い切った上で、唯一、これから向上していくべきとして考えられるのは「経営者」であると話した。
能力ではなく概念の話であると前置きした上で、まず給料に関しては、高く払う「文化」「概念」がないことが問題だと指摘。また、物を安く売ることが弱点になっていることも課題として掲げた。
過去30年間の正解とこれからの正解は今後大きく変わってくる。そんな中で「コロナは変化の分岐点」だと捉え、一番変わるべきは政治でもなく働く人でもなく「経営者」の1点だと藤本氏は強調する。
経営者がしっかり利益を出し、しっかり分配し、それが「普通」になっていくことで、沖縄経済の可能性は広がると感じており、その想いこそがわざわざ沖縄に移住して商売をやっている大義名分であると語り、今もその気持ちは変わらないときっぱりと話した。
小宮氏「経営者の考え方を見せることで、働く側の新しい基準が生まれるのではないか」
現在の転職傾向について「実は企業が給料が高いことだけにフォーカスして求人広告を出すと、“ゴリゴリにやらされるんじゃないか”等沖縄の人には不安がられる傾向がある」と小宮氏は話す。更に地方にいくと「正社員が怖い」という人もいるそうだ。これらは企業側の「情報の発信不足」であると指摘する。
琉球オフィスサービスを例に挙げる。同社代表である藤本氏は、自らブログ等で「給与が高い理由」や「人材に求めていること」をはっきりと発信している。今後は、内容は違えど沖縄の会社がそれぞれに「発信」をしっかりと行っていくべきだと小宮氏は考えている。
実際にコロナのタイミングで数件の企業に話を聞きに行った時のことだ。コロナ禍で特に大変だった宿泊業だがが、小宮氏が話を聞いたところでは「事業の縮小は決断したが、雇用は全員守る」という決断を早い段階でしていたという。雇用は守りつつも”暇な時間”は当然増えるため、その時間を近隣の会社で働いてもらうなど工夫をしながらも、しっかりと雇用を守った姿を小宮氏は「こういう考えであることをもっと外に発信すれば、めちゃくちゃ“モテる”のでは」と考えたのだ。
給与や条件面を淡々と書く求人ではなく、考え方をしっかり見せることで、働く側の新しい基準が生まれるのではないかと語った。
***
それぞれの立場からの貴重な話が聞ける有意義な3時間となり、終了後はSNSでも感想や希望、決意などが飛びかった。
何より、最前線で活躍する経営者の方々の意見を聞けたことで、考える機会や覚悟に繋がり、希望が見いだせた人は多いだろう。また視聴していない人にとって、この記事が何かのきっかけになれば嬉しい。