沖縄経済オンラインシンポジウム~新しい時代の沖縄をどう生きるか~(上)

 

 5月に入ると、オンラインでのセミナーやシンポジウムの開催を知らせる情報が多く流れはじめた印象がある。その中でも、ある時期から筆者のSNSタイムラインに頻繁に出現したのが、5月29日(金)に開催された「沖縄経済オンラインシンポジウム~新しい時代の沖縄をどう生きるか~」だった。

 新型コロナウイルスの感染拡大により、観光産業が盛んで離島県である沖縄は、経済だけでなく政治や文化にまで大きく変化を及ぼすと不安に思う人も多いだろう。今回のシンポジウムのテーマ「沖縄の経済はどう変わるか」「新たな沖縄の強みを創出し、収益に繋げる」と各プロフェッショナルが集う人選の良さ、そして収益をゆいマスクプロジェクト(こちらの記事を参照。https://okinawanewsnet.jp/?p=119)に寄付するという趣旨に、応募者は多く集まり、合計で112人もの人が参加に至ったという。

 シンポジウム主催者で、編集者・ライターの普天間伊織(ふてんまいおり)氏は、開催の趣旨についてこう話す。「新型コロナウイルス感染拡大を受け、誰もが未経験の事態に困惑する中で、経営や働き方をどのように捉えていけばいいか悩んでいる人は多いはず。特に沖縄は特別な土地なので、私自身が話を聞きたいと思いました」

 シンポジウムのパネリストには「今後の沖縄を担う30~40代の若手リーダー」かつ「今回の事態に素早く対応した経営者」という視点で、それぞれ分野別(飲食、雇用、不動産、インバウンド、投資)のプロフェッショナルが集められた。

パネリストとして選定されたのは以下の5人。

・上間喜壽氏(株式会社上間フードアンドライフ代表)

・小宮仁至氏(ファンシップ株式会社代表)

・友利真由美氏(株式会社エレファントライフ代表)

・比嘉良寛氏(株式会社Payke取締役)

・藤本和之氏(株式会社琉球オフィスサービス代表)

・司会:榊田えみ氏

その内容を一部・二部にわたり、お伝えしたい。

第一部「沖縄の経済はどう変わるか」

 第一部では、各企業の代表・経済の専門家がそれぞれの立場から新しい社会における企業の役割、人材育成、技術革新、継承などといった様々な問題にどう向き合っていけば良いかをテーマに進行された。

株式会社上間フードアンドライフ代表・上間喜壽氏「飲食・サービス業は“キャッシュバランスの管理と変化への対応”が求められる」

 新型コロナウイルスの感染拡大により全国的に大きく影響を受けた飲食業界だが、第一波において、経営の差は「準備」に出ていたと株式会社フードアンドライフ代表・上間喜壽氏は話す。

 新型コロナウイルスにおいてはただならぬ変化であるため、簡単には対処できないことではある。だがまず第一波において倒産に追い込まれた店舗・企業に関しては、コロナ以前に元々の経営に問題があったのではと指摘する。例えば3か月売り上げがなかった場合に、固定費+銀行へのキャッシュ・フローが何か月分もつのか等、『数か月を見越したキャッシュバランスを事前に経営者がきちんと計算していたか』という点が大きいと分析した。

 続けて「有事であるが故に、どれだけ組織が早く動けるかが差になって出ている」と変化への迅速な対応についても指摘。実際に株式会社上間フードアンドライフでは、コロナ禍の対策として1か月あたりの固定費を500万円近く下げた。人材教育の一環として以前から数部門にわたる業務を行えるよう人材育成していたため、準備が功を奏し、時間をかけずにコスト削減ができたと語った。

 そして今後は「これまで通りというわけにはいかない」ときっぱり言った。これまでお客を店舗に呼び、サービスを提供を行うのが飲食店の主であったが、同じやり方を続けることが非常に難しくなっている。店舗以外の販売チャネルを作ること、いかに”付加価値”の高い商品・サービスを提供し、客数ありきの状態を脱却できるかが重要だと話した。

株式会社Payke取締役・比嘉良寛氏「インバウンド観光1~2年は難しい」

 株式会社Paykeでは、インバウンド(訪日外国人観光客)向けに翻訳アプリを提供している。日本製品のバーコードを読み取ると、その商品の詳細を多言語で読み取るというサービスだ。株式会社Payke取締役である比嘉良寛氏からは「インバウンド観光の今後」「IT活用」の2点について話を聞くことができた。

 まず、インバウンド観光の今後については、1~2年は難しいのではと予測する。国内に関しては、地域でのクラスター発生などにより一進一退は避けられないものの、少しずつ戻っていくだろうと話す。だがインバウンドに関しては、国の方針等も影響するため最後まで戻らない可能性が高いと危惧した。株式会社Paykeの対応としては、早急にオフィス移転などあらゆる策を講じ、1~2年は存続できるようコスト整備を行ったそうだ。

 一方、ITの活用に関しては、土産屋の事例をひとつ挙げた。日ごろからネット販売に力を入れていた店舗は売り上げ6~7割ダウンだったことに対し、実店舗のみの店は9.9割減など大幅に減少。両者大きく減ってはいるものの、減少幅にかなりの差がついた。

 実店舗のみだった店が急場を踏んでネットショップを立ち上げた事例もあったが、すぐに結果に繋げることは容易でなく、”やっていたかどうか”が重要だったと話す。

 オペレーションに関しても同様、以前からITツールを使っていなかった企業は休業になったり追加コストがかかったり等、以前から活用しているか否かで差が出たようだった。

 ちなみに余談ではあるが、株式会社Paykeの提供するアプリは意外な形で活躍した。海外の人が「日本製マスクを判定するのにこのアプリだ便利だ」と日本製品ウォッチャーとしてダウンロードが激増したとのことだった。

株式会社琉球オフィスサービス代表・藤本和之氏「中小企業の経営者は、災害等起こる中でやっていくのがそもそもの前提」

 昨年投資ファンドSCOMを立ち上げた琉球オフィスサービス代表・藤本和之氏は、経済という観点で見た時に「正直、当面かなり厳しい状況が続くであろう」と予測した。

 だが、話は新型コロナウイルス以前の問題であるという前置きの後、そもそも去年までの沖縄県は、観光客が激増していたこともあり“非常に長い好景気”だったと話す。そのため2020年はオリンピックを節目として景気サイクルは不景気時代に差し掛かるだろうという予想は以前からあったのだ。今回の事態は“コロナによって景気が悪くなった”というよりも、“コロナによって景気の悪化に拍車がかかった”というのが本質だろうと冷静に分析。

 そしてコロナ禍を迎えた今となっては「景気が良かった4~5年間生き延びたこと自体に、今後の再現性はない」と言い切った。またリーマンショックや東日本大震災など、“数十年にあるかないかの災害”が、この20年の間に複数回起こっていることを考慮し「僕も含めた中小企業の経営というのは、その中でやっていくことがそもそもの前提」と、経営者としての覚悟を示した。

 また、藤本氏は今後、中小企業は三極化していくと予想する。1つは新しいサイクルに対応できる企業。もう1つは、それができない企業。3つ目は新しく生まれる企業である。

 景気が良かった時代に最適化された企業ではなく、普通の商売じゃ生き抜いていけない前提ありきの企業が生まれ、そういった企業こそが新しいスタンダードを作るチャンスを秘めていると話し、「僕もそういう企業のひとつになりたい」と締めくくった。

株式会社ファンシップ代表・小宮仁至氏「コロナにより二極化が加速。今後はグラデーションを持たせた働き方を推進」

 コロナが流行した2~4月は、通常であれば新卒採用真っ盛りのシーズン。しかしコロナの感染拡大により合同説明会等が軒並み中止になり、来年春に卒業する学生のほとんどが満足に就職活動できていないと話すのは、レンアイ型採用コンサルティングサービスを提供する株式会社ファンシップ代表・小宮仁至氏だ。

 有効求人倍率についても大きな変化を語った。これまでおよそ1.21倍だった沖縄が、4月になり0.91倍となり、初めて1.00倍を切ったのだ。しかし一方で、4月“新たに人材募集をした”企業が5821あり、“少なくともゼロではない”と前置きした上で、実はコロナの前から「取れるところは取れる(企業)、仕事がある人はある(働き手)」という二極化が進んでいると話す。そしてコロナによって二極化はもっと明確になると小宮氏は考えていた。

 更に“人生100年時代”と言われる今、“終身雇用”という考え方はかなり難しい局面にきている。そうなるとやはり、20歳の頃に学んだ知識で最後まで働くという考え方は難しく、上手なキャリアチェンジを2~3回行っていく必要がある。キャリアチェンジの方法として小宮氏は”働き方にグラデーションをもたせる”転職が最適なのではと話す。

 例えば同じ「営業職」と言っても、その実態は様々だ。飛び込み営業などを重ね新規契約をどんどん取る「営業」もあれば、既存客の元に何度も足を運び、追加受注を取っていく「営業」もある。それぞれ同じ「営業」という言葉でくくられているが、適性は全然違う。

 実際に異業種へのキャリアチェンジに成功した具体例をあげた。ホテルのフロントとして長年勤めていた人が「人と関わる仕事」という観点で、とある営業会社に転職したが合わず、心を病んでしまった。その後縁があり、知人の紹介で介護福祉業で一時的に働くことに。働いてみてその方は「同じサービス業」だと感じたのだそうだ。一時的に働くつもりだったが、結果として年収も格段に上がり、本人にとって”良い転職”となったらしい。

 自分自身も気付いていない能力は働く側にもある。企業はどういった仕事かを具体的に発信し、働く側も職種にこだわらずにキャリアの棚卸をすることが大事だと話した。

株式会社エレファントライフ代表・友利真由美氏「不動産所有に少しでも不安がある人は、早めに専門家に相談を」

 沖縄の不動産といえばこれまで「なんか景気良さそうだよね」という雰囲気を帯びていたが、実はコロナの前から陰りが出ていたと株式会社エレファントライフ代表・友利真由美氏は話す。

 昨年から観光客がおよそ3割ほど減っており、それから更に1年前、かぼちゃの馬車騒動(不正融資に近いことが「かぼちゃの馬車」という名のシェアハウスを用いて行われた事件)が勃発したことにより、それまで自己資金がなくてもできていた不動産投資が、2~3割キャッシュがないと融資できにくくなっていた。つまり1億円のアパートを建てたいと思った時、2000~3000万キャッシュで払えないと金融機関がお金を貸してくれなくなったのだ。キャッシュで数千万を出せるという人は少ないだろう。これにより「持つものと持たざる者」の格差が大きくなったのがここ数年だった、と友利氏は話した。

 買いづらさに反して、沖縄の不動産は長い間上がり調子だった。だが去年11月頃にピークを迎えたのち、インバウンド観光客の減少や競争が激しくなった等により、少しづつ下がってきていた。

 実際に年明け頃から、新築の動きがかなり鈍くなって(買う人が減って)おり、その勢いに追い打ちかけたのがコロナだった。そして今後最も恐るべきは、仕事を失っていたり住宅ローン支払いが難しい人が増えたりする可能性だ。

 これから半年~1年後の間に売却を検討する人が増えるだろうが、実は売却はそう簡単にはいかない。売却するとなると、借入したお金の残債を返済しないと売れないからだ。そして不動産の価格事態が下がっているため「残債2000万に対して売値が1500万」ということも十分考えられる。すると500万円は自腹で払うしかなく、また、売買が多く続いてしまうと住宅ローンの審査自体が厳しくなってしまい、「買いたいけど金融機関が貸してくれない、売りたいけど売れない」といった負のスパイラルに陥ってしまう。それが続くと、売るのも買うのも厳しい時代が訪れることになる。

 とにかく一番最悪のパターンは、売ると決断した時に残債と販売価格の差額が大きくなり借金を背負う形になってしまうことだ。そうなるとその後の人生も苦しくなってしまうため、少しでも不安がある人は、早い段階で専門家に相談して欲しいと話した。

(第二部へ続く)

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三好 優実

三好 優実

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香川県出身・沖縄移住歴6年目のフリーランス編集者・ライター。主に沖縄県内の観光・グルメ・経済について執筆。シリーズ本「香川県あるある」の著者。

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