アートは分断を乗り越えるか 岡本光博展覧会「オキナワ・ステーキ」レビュー

 

「沖縄の心に寄り添う」ことは可能か

 以上のような経緯を辿った《赤絨毯》のほかに、開催中のギャラリーeitoeikoでの個展では「2017イチハナリアートプロジェクト+3」の出品作として伊計島で発表されたものの、住民の苦情を受け非公開となり、のちに「あいちトリエンナーレ2019」内の企画「表現の不自由展・その後」で展示された《落米のおそれあり》(2017)

岡本光博 落米のおそれあり 2017 photo: Daisaku OOZU

 沖縄県民にはおなじみのステーキ店「サムズマウイ」と「四季」の看板を再構成し、ヤマトとアメリカの都合で料理される沖縄をステーキに例えて描いている《OKINAWAN STEAK》(2005)、地元のアーティストらの手を借りて、漫湖まで那覇市内の川をボートで遡上する記録映像《to MANKO》(2005)といった沖縄と真剣に向き合ってきたことがわかる作品が並んでいる。

岡本光博 オキナワ・ステーキ 2005 photo: Daisaku OOZU

 しかし、作品についての説明を尽くしたとしても、マジョリティの立場にいる者が、マイノリティのことを語る際には常に誤解されるリスクがつきまとう。特にSNSを中心とした少ない画像と短文がメインのコミュニケーションでは、炎上を回避できない。

 同じマジョリティの立場からのメッセージであっても、「沖縄の心に寄り添う」と言いながら、各種選挙や県民投票で何度同じ結論が出ても新基地建設を強行し続ける空虚な言葉と、岡本作品が大きく異なることは、沖縄の一番暑い季節に屋外で一人一人の戦没者の名前と対峙し続けて制作された岡本の丁寧な仕事が映し出された作品を見ることで理解できる。アートという手法は即時性には優れないものの、鑑賞者が作品と時間をかけて対峙することで言葉では表現しきれない感情を感じて信頼関係を深めてゆく貴重なツールになりうる、という可能性を改めて確認する機会になっている。


展覧会情報
岡本光博 オキナワ・ステーキ
キュレーション:工藤健志
会期:2021 年 2 月 6 日(土)~2 月 27 日(土)
開廊時間:12 時から 19 時
休廊:日月祝休廊
会場:eitoeiko 〒162-0805 東京都新宿区矢来町 32-2
電話:03-6873-3830
ウェブサイト:www.eitoeiko.com
お問い合わせ:ei@eitoeiko.com(担当:癸生川)

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