“夢”へこぎ続けられる環境を 自転車選手育てる「琉球スターゲイザー」が発足したワケ

 
バイクにまたがり、選手を高速で引っ張る渋谷久路さん(左)=6月上旬、沖縄県総合運動公園の自転車競技場(長嶺真輝撮影)

 沖縄から日本、そして世界で活躍できる自転車選手を育成、支援するプロジェクトが4月に発足した。その名は「琉球スターゲイザー」。叶えるべき“夢”(星=スター)をブレずに見つめ続ける者(ゲイザー)、という強い意志が込められている。

 発起人は名門実業団の元選手で、今年3月まで沖縄工業高校の外部コーチを務めていた渋谷久路さん(49)=那覇市=だ。3年近く高校生を指導し、全国で勝負できる選手を育てるなど結果を残した。しかし育成の現場に携わるほど、離島県・沖縄ならではの課題が見えてきたという。プロジェクトを立ち上げた背景とはー。

1回の大会出場で10万円 プロ諦める子も

琉球スターゲイザーを立ち上げた渋谷さん

 千葉県出身の渋谷さん。自転車競技の強豪である早稲田大学で短距離選手として活躍し、卒業後は実業団の名門「ラバネロ」で中長距離に転向。全日本選手権で好成績を残したこともある。32歳で一線を退いた後は競技に関わることはなかったが、2010年に仕事の転勤をきっかけに沖縄に移住した後、息子の一斗さんが高校で自転車競技を始めると、仕事の傍ら指導もするように。県内の指導者に誘われ、沖縄工業高校の外部コーチを引き受けた。

 2020年の秋ごろから23年3月までの短期間ではあったが、全国総合体育大会や全国選抜で上位に入る選手も輩出した。しかし選手たちの将来に目を向けた時、課題にぶち当たった。

 「潜在能力の高い選手に『プロを目指さないか』という話をしても、金銭的な問題があって沖縄を拠点にチャレンジするのが難しい。せっかく育成しても、高校を卒業するのと同時に自転車競技を諦めざるを得ない状況があるんです」

 県外の大学などで競技を継続できる選手はいいが、そのためには経済力や実績が必要になり、ハードルは高い。一方で沖縄を拠点に続けようとした場合、県外での大会に出場する際、高校生であれば部活動に対する補助があるが、卒業後は1回の遠征につき移動費や宿泊費などを合わせて自腹で10万円以上かかることもザラだ。

育成に力 将来はスポンサー支援も

選手たちが使う競技用の自転車

 そんな現状を打開するために立ち上げたのが琉球スターゲイザーである。まだ立ち上げたばかりで金銭的な支援は難しいが、渋谷さんが個人で所有する機材を貸して選手たちの負担を軽減。「いい選手を輩出しないとスポンサーも集まらないと思うので、まずは育成に力を入れたい」と意気込む。将来的には地域貢献活動を通し、企業などからの金銭的な支援も取り付けたい考えだ。

 県総合運動公園内にあるバンク(自転車競技場)が近い強豪校の北中城高校は専門の指導者がいるが、その他の学校は部員数が少なく、練習環境も厳しい。そのため、今は北中城以外の沖縄工業、興南、首里東、南部農林の各高校の選手の指導をほぼ一手に請け負うほか、大学生や実業団に所属する選手も含め計12人をコーチングしている。

鍛錬に汗を流す選手たち

 渋谷さんの古巣である「スミタ・エイダイ・パールイズミ・ラバネロ」(東京)に所属し、日本競輪選手養成所の試験に向けて鍛錬を積む謝花勇哉(19)=沖縄工業高校出身=は「高校の頃から受けている渋谷さんの指導が自分に合っている」と、今も沖縄を拠点にしている。琉球スターゲイザーの取り組みについては「5月に静岡県であった全日本選手権に出場しましたが、その時も10万円くらいかかり、きつかったです。この取り組みが形になれば、自分みたいな選手にとっては本当にありがたいです」と若手が競技を継続する支えになると見る。

 メンバーがバンクを使えるのは土日の午後のみだが、ローラー台を使った練習やウエイトトレーニングなど、平日も個々の特性に合ったメニューを組む。「タイムを出すためにはトルク(ペダルを踏む力)とペダルをより速く回す能力が必要になる。平日のウエイトトレーニングでつけた筋肉に対して、バンクで行う神経系のトレーニングでさらに負荷を掛けることで、自転車に生かせる筋肉に変わっていきます」。選手時代から培ってきた理論を基に、限られた練習時間で育成に努めている。

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