“余白”を押し広げる試み なはーとで根間智子さん展示「MARGINALIA」

 
現代美術家の根間智子さん。左奥がネオンチューブのインスタレーション、右奥には映像作品が上映されている

 那覇市民芸術劇場なはーとの1階供用ロビーで、現代美術家・根間智子さんの作品「MARGINALIA(マージナリア)」の展示が始まっている。展示内容は、ロビーの壁面に映し出される映像と、天井に設置されたネオンチューブを使用したインスタレーションだ。インスタレーションは3月12日まで、映像作品は3月31日まで展示されており、いずれも無料で鑑賞することができる。
「不特定多数の人たちが通り過ぎて交差するロビーという場で、“余白を押し広げる”ことに挑戦しました」と根間さんは語る。「余白」という言葉を中心に、根間さんが作品制作の過程で考えたことや、そこに込めた思いについて聞いた。

マージナリア=余白

 展示タイトルの「MARGINALIA(マージナリア)」は、余白やト書き、本などで文章の欄外に添えられた注釈といった意味の言葉だ。

「(コロナ禍やウクライナの戦争などがあって)生きにくい今という時代の中で、本当に自分がやりたいことに挑戦しながら余白を押し広げることで、自分たちの生きる場所を獲得するという意味もあるのかもしれません」と語る根間さんの「余白」という言葉には、いくつもの意味が込められている。

 それは文字通りの何もない真っ白な空間なのかもしれないし、意味付けがされていないからこそ自由に“遊べる(表現できる)”フラットな場所なのかもしれない。あるいは、余白を余白と認識することができる鑑賞者や表現者の見方に関することなのかもしれないし、これら全てのことを指すのかもしれない、とも言える。

「通り過ぎる空間」で見ること

壁面に浮かび上がる月

 上映されている映像作品は、ゆいレールから捉えた流れ行く風景(約40分)、東京と大阪の地下鉄の車窓風景(約20分)、そして宮城島の月を撮影した動画(約3分半)で構成された、計約1時間の映像だ。

 モノレールから撮った風景はてだこ浦西駅から那覇空港まで、終点から始点までの様子をノーカットで収めたもの。劇場を訪れる人たちにはモノレールで来てモノレールで帰る人たちも多く、上映するロビーという場所が「移動する」「通り過ぎていく」空間というところから着想を得たという。

「通常の運行を映し出しただけで一見すると何も起こらないように思えるのですが、映像を注視してみると、撮影の時には気付いていなかった“1回限りの現象”が多々あるように思ったんです。ビニール袋のようなものが舞っていたり、鳥が画面を横切ったり、車両を見つめて佇む人がホームにいたり。本来ロビーは映像を観に行く場所ではないからこそ、物語性のある映像作品ではない形の作品にしたかったということは考えていました」(根間さん)

 モノレールの景色がゆっくりと過ぎ去っていくのに対し、東京や大阪の電車は何倍も速い。車両が地上に出て賑やかなネオン街を映し出した時には、画面のすぐ手前に設置されたネオンチューブと共鳴して、空間の雰囲気が変わるようにも感じられる。
 そして月の映像では、大きな月面にかかる薄雲と映像が投影されているなはーとの壁面の質感とが調和しており、あたかも最初からロビー空間に溶け込んでいたかのような不思議な心地を覚えるはずだ。

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