【沖縄県知事選】ポイントは「旧統一協会」「既視感」「辺野古」 玉城氏圧勝と過去2番目に低い投票率のワケ

 

玉城氏、終盤で”2点”突破 人気健在も5万票以上失う

 一方の玉城氏。ウチナーグチを操るラジオパーソナリティーから政界に飛び込み、持ち前の親しみやすさで約9年務めた衆議院議員時代から積み重ねてきた人気は健在で、佐喜眞氏に逆風が吹いていたことも相まって告示前から優勢との見方が強かった。

 辺野古移設反対や子どもの貧困問題に関する政策に重点を置きながら、佐喜眞陣営が訴えた経済の「県政危機」を打ち消すように、1期目で着手できなかったMICE施設の建設に意欲を見せるなど経済振興に注力する姿勢を示した。さらに子どもや若者、女性への支援充実を「県政の最重要政策」に位置付け、ソフト面を強調することで無党派層の票の掘り起こしを図った。

支持者とグータッチする玉城デニー氏=9月8日午前、糸満市内

 ただ序盤戦こそ幅広い政策を訴えていたが、選挙期間中にメディア各社の世論調査で「先行」との報道が相次いで出ると、佐喜眞氏が「容認」の姿勢を示して対立軸が鮮明となった最大争点の1つである辺野古移設問題に傾注。終盤は「沖縄の民意を示す」という旗印を掲げて票固めに奔走した。

 それが顕著に表れたのが、「三日攻防」前日の9月7日に県民広場で行った大規模な演説会だ。マイクを握った玉城氏は冒頭で「あえて政策の話はしません」と切り出し、辺野古移設反対の主張を念頭に「選挙に勝って、これが県民の民意だということを堂々と政府に申し上げたい」「絶対に勝たねばならない」と支持者を鼓舞する言葉を連発。経済振興や貧困対策などの政策には一切触れず、高揚感の演出に力点を置いた。

 さらに応援弁士は「反社会集団に支えられた候補者を当選させる訳にはいかない」などと佐喜眞氏を度々批判。「辺野古」と「旧統一教会」の”2点”突破で保守地盤とされる本島北部や籬島でも支持を広げ、41市町村中28市町村で佐喜真氏を上回った。特に大票田·那覇市では約24,000票もの差をつけて勝負を決めた。

 一方、翁長雄志前知事の死去による”弔い合戦”の要素も手伝い、歴代最多の得票数を得た4年前に比べると56,865票も得票数を減らした玉城氏。一部経済界の離脱などで革新色が強まり、市部の首長選で連敗、7月の参院選も薄氷の勝利となるなど「オール沖縄」の弱体化は否めず、今回の勝利も「玉城氏の人気によるもの」との声も聞かれる。

 玉城氏自身についても、1期目はコロナ禍や首里城火災、豚熱の発生、軽石の襲来などほとんどの期間を危機対応に当てざるを得ず、目立った実績は残せなかった。さらに県立中部病院で発生したクラスターの公表遅れや「ゼレンスキーです」発言など、県のリーダーとしての資質が問われる出来事もあり、一部支持者が離れたと見られる。

 とりわけコロナ禍での支援がほとんど受けられていない観光業界からの反発が強いほか、辺野古移設問題における国との対立も深化しており、2期目も難しい舵取りが続きそうだ。

辺野古以外で論争深まらず 有権者離れに拍車

 57.92%という過去2番目に低い投票率も今回の選挙を象徴する数字となった。

 歴代最低の57.22%を記録した2002年は革新が分裂したため、稲嶺惠一氏の再選が既定路線となり、有権者の関心が極端に薄れた。案の定、稲嶺氏は次点候補に約21万票もの大差で勝利。50%台の投票率はこれまで2002年と今回のみであり、いかに関心が低かったかが分かる。その原因は、前述したように4年前とほぼ同じ構図となったことによる「既視感」だけではない。

米軍普天間飛行場の代替施設の建設が進む米軍キャンプ・シュワブと大浦湾=名護市辺野古

 3候補の主張が別れた辺野古移設問題では討論会などでも活発に意見交換がなされたが、他の分野については議論が深まらなかった印象は拭えない。

 投開票後、ある保育関係者は「3人の保育関連の政策を見て、ほぼ関心がなくなった」と内容の現場感の薄さにため息をついた。授業料の無償化など各候補が教育関係の政策を列挙した一方で、教育関係者からも「議論が思ったように盛り上がらなくて残念」との声が漏れた。争点となった辺野古移設問題も対立が続く中で政府が着々と埋め立て工事を進めており、諦め感が広がってきているのか、4年前より「県民の熱量を感じなかった」との印象も聞かれた。

 基地問題が「政治問題」にとどまらず、騒音や事件·事故という身近な「生活問題」になっている沖縄にとって、基地関連の政策論争が活発化するのは当然ではあるが、コロナ禍で傷んだ経済や教育現場、厳しい子育て環境など沖縄社会における課題は多岐にわたる。他の選挙も含め、政治家が各分野で丁寧な政策論争を深めない限り、有権者離れを食い止めることは難しい。

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