“まるでおとぎ話”のような「ちむどんどん」

 

言葉は借り物でよいのか

 県の「しまくとぅば普及センター」に放送初日の4月11日、視聴者から思いがけない電話が掛かってきた。受話器を取った職員にこう訴えたという。

 「番組を紹介するアナウンサーの『ちむどんどん』『やんばる』のアクセントが違う。直してほしいとNHKに電話したが取り合ってもらえなかった。普及センターから抗議してほしい」

 「日本語アクセント辞典」に則って仕事をしているアナウンサーには酷な注文かもしれない。しかし県出身出演者がまったく山原イントネーションに近づけようとしている姿勢が見えない。その理由が分かった。

 「私が背負う『沖縄ことば指導』。それは決して『方言指導』ではない。早い話がヤンバルのしゃべり方ではないということだ。(中略)全国放送なので、全国の人に伝わるであろう、沖縄がイメージできる台詞まわしが必要になる」(5月3日「沖縄タイムス」)

 寄稿した藤木勇人氏は同7日に収録され、同27日に放送された「ちむどんどん舞台地リレートークショー」(NHK)でも、「本当は山原のしゃべりでできるのが一番いい」と前置きしつつも、現在の形になった経緯を同様に語っていた。

 幾つか問題がある。山原を舞台にしていながら言葉は借り物でよいのか。土地と言葉は表裏一体である。山原の言葉では「全国に伝わらない」のか。山原の言葉では「全国に沖縄がイメージできない」のか。

ドラマのロケ地のひとつ備瀬のフクギ並木

 かつては「方言」、「うちなーぐち」、そして今は「しまくとぅば」と言い表すようになったのは、それぞれの島々の多様性を尊重しようという表れと受け止めれば、同氏の言う「沖縄がイメージできる台詞まわし」はその精神に逆行する。山原は全国では勝負できないとも読める。

 もっとも同氏が「方言指導ではない」と言っているように、決して山原のお年寄りたちが使う山原の島言葉を期待しているわけではない。あくまでアクセント、イントネーションにおいてだ。

 俳優は驚くほど耳がいい。映画「ウンタマギルー」(高嶺剛監督)で主演の小林薫氏は、うちなーぐちが全くできないにもかかわらず、自然な台詞回しが高く評価された。俳優は職業上、適切な指導があれば肉薄する能力を備えている。

 藤木氏は撮影の1年前の2020年夏から「NHKドラマ部の命を受け、朝ドラの『あ』の字も出さずに、いわゆる隠密行動でリサーチを県内外でしていたのだ」(同記事)という。1年の準備期間があれば、山原在住者や山原出身のネイティブと会話し、リサーチする機会はあったはずだ。山原のそれに近づけることは可能だったのではないか。

神は細部に宿る

 フィクションだからといって実相をないがしろにしてはいけない。料理でも注文が付いた。イタリア料理研究家で日伊協会常務理事の長本和子氏からあり得ない指摘が出ているが、紙幅の都合で割愛する。料理がドラマの隠し味なのだろうが、「料理監修はいるのか」という書き込みもある。「神は細部に宿る」のである。

 今回と同じ羽原大介氏が脚本を担当し、ウイスキー造りをテーマにした連ドラ「マッサン」(2014年後期)は好評を博した。同じ蒸留酒。ウイスキーの成功体験を沖縄料理の伴侶、泡盛でも醸し出してほしい。

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友寄 貞丸

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伊江村出身。1990年から主に中国、台湾の取材執筆活動を続ける。2014年11月Uターン。著書に『雲南哀楽紀行』(愛育社)など。国境を越えても一線を越えない旅と取材を信条とする。

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