キムタツコラム⑩あなたのちからになりたくて

 
ラグーナ出版HPより

 国内有数の進学校、灘中学校・高等学校(兵庫県)の元英語教員で「夢をかなえる英単語ユメタン」シリーズや「東大英語基礎力マスター」シリーズなど数多くの有名参考書を手掛けている作家の木村達哉(キムタツ)さん。 「NPOおきなわ学びのネットワーク」 を立ち上げて沖縄の生徒の学びを支援しているなど、沖縄に縁深く活動しているキムタツさんに、教育に限らずさまざまな角度からコラムを書いてもらいます!


 皆さん、こんにちは。木村達哉です。どうぞよろしくお願いします。6月10日に念願の絵本『あなたのちからになりたくて』を刊行しました。今回のコラムは、その絵本を作るにいたった想いについて書きます。最後まで読んでいただければ嬉しく思います。

 絵本といってもストーリーがあって子どもに読み聞かせをするような絵本ではありません。大人の皆さんにも読んでいただけるメッセージ本です。生きていると楽しいことや嬉しいことばかりではありませんよね。なんだか辛いなぁ、苦しいなぁ、ぜんぜん楽しくないなぁ…ということばかりです。思っているとおりにならなくて、気持ちが弱くなっている人、苦しくて眠れない人、だけど背中をそっと押してほしい人のために絵を描き、メッセージを書きました。この絵本を作りたいと思ったのはここ1年2年ではありません。教員生活を送っていた頃から、堅い文章ではなくて絵本という形で、僕からのメッセージを伝えられたらいいのなと思っていたのです。

33年間近くで見てきた苦悩

 僕は西大和学園で10年間、そのあとは灘校で23年間、合計33年間、英語の教員として働きました。西大和学園は約70人が、灘校は約90人が、それぞれ東京大学に合格する超進学校です。どちらもよくテレビ番組で取り上げられ、「天才」と呼ばれる子たちが出演します。でも、彼らは決して天才ではありません。テレビに映っているのは彼らのほんの一部でしかありません。成績が伸びなくて苦しみ、時としては学校を休みがちになり、なかには本当にいっさい登校できなくなって退学していく生徒たちも少なくありません。

 先生方もそうです。灘校はそうでもありませんでしたが、僕が働いていた頃の西大和学園は創成期でしたからね。生徒たちの成績は偏差値が40台。これから実績を上げていこうという学校でしたので、勤務はかなり厳しいものでした。職員室を出て自宅に帰るのは、ほとんど毎日23時を過ぎていました。模試の成績分析会議では、生徒たちの成績を上げられない先生方が苦しみ悩み、なかには自信を持てなくてうつ病を発症させる先生方、退職していかれる先生方も数多くいらっしゃいました。そういった生徒たちや先生方をずっと見てきた33年間でした。

沖縄の教育現場でも

 2014年でしたか、興南中学校・高等学校から保護者対象の講演依頼をいただきました。終了後に先生方との懇親会がありましてね。ダーツバーで盛り上がったのは、今でもはっきりと覚えています(当日は飲み過ぎて途中から記憶がなくなったのですが)。その懇親会で当時の副校長先生と沖縄の教育について語り合いました。学力が向上せずに悩んでいる生徒が多いこと、全国学力テストでは中学生の成績が全都道府県の最下位(当時)であること、そういった生徒たちに向き合っている先生方が疲れ果てていることなど、教育現場のいろんな状況について教えていただきました。そして、「自分の経験が役に立つならば」と思いまして、NPOおきなわ学びのネットワークを立ち上げたのです。

勉強って楽しいものなんやで!

 勉強って、本来的には楽しいじゃないですか。昨日まで聞き取れなかった英語が今日は聞き取れるんです。昨日まで上手く弾けなかったピアノが今日は弾けるようになっているんです。昨日まで上手く作れなかった料理が今日は上手く作れるようになっているんです。できるようになった!という喜びがあるからこそ勉強は楽しいのです。ところが僕が勤務する学校にしても、沖縄の学校にしても、生徒も先生も疲れ果てていて、なんだかため息ばかりついているような気がしましてね。もっと長い目で人生を見て、勉強を、つまり少しずつ自分のレベルが上がっていくプロセスを、楽しめばいいのになぁと、そしてそれを僕自身が上手く伝えられればいいのになぁと、強く思いながら勤務し、また沖縄でも子どもたちに話をしてきました。勉強って楽しいものなんやで!と。勉強はすぐに結果が出るものではないけど、続けていけば必ず幸せにつながるものやし、他人のことを笑顔にできるものなんやで!と。

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