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ここが変だよ、学校の規則 学力テスト向上の裏で
- 2020/8/6
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「せーいーざー(正座)」「はいっ!」「これから~校時の授業を始めます」・・・。授業開始前の号令といえば、この一連のやり取りが沖縄ではお馴染みだった。思い出す人も多いだろう。誰もがこの号令に従い、この一連の〝儀式〟が学校での教師とのコミュニケーションの定型として記憶にすり込まれているはずだ。
しかし、学校教育にも流行廃りがある。昭和世代が少年少女時代の甘酸っぱい思い出とともに記憶したやり取りも今は昔。「正座」の号令はとっくに教室から消え去った。
「正座」はもう古い。いまは「立腰」
今、小学校で授業の合間ごとにかけ声をかける役割を担う、いわゆる「日直さん」と呼ばれる児童が元気いっぱいにかける号令は、「立腰(りつよう)」という。
耳慣れないこの「立腰」という言葉。読んで字のごとく、「腰を立てる」姿勢のこと。つまりは背筋を伸ばして座るだけなのだが、その姿勢を取った上で両手を腰の後ろで組むのが沖縄の学校でいうところの「立腰」なのである。
「両手を後ろに回すことで、自然と胸を張る格好になる。猫背にならないんです。姿勢が悪いと、疲れやすく、集中力が落ちてしまう。だから『正座』と同様に、授業の開始前や先生が話し始める前には『立腰』で背筋を伸ばして、改めて姿勢を正す。良い姿勢は、学習に望む前の基本動作なんです」(本島南部小学校教員)
「立腰」は学力テスト1位の秋田県から
「立腰」は哲学者にして教育者の森信三が提唱したもので、腰をシャンと立てることが人間に性根を入れる極秘伝なのだとか。先ほどの本島南部の教員によると、もともと沖縄県で学校教育の場に取り入れられたのではなく、「全国学力テスト」1位常連県の「秋田県」で盛んに進められた。
なお、沖縄県はというと、つい最近まで、全国でもかなり有名な最下位常連県。とある人気深夜番組でも、「沖縄の子どもたちが勉強しない理由」と題して紹介されたことがある。「マーメー(真面目な子をからかう言葉)と言われたくないから」という県民のコメントが紹介され、番組内でネタにされた。
以前は小中学生の「全国学力テスト」で6年連続最下位だった沖縄県は現在、全国上位(2019年)にまで上昇した。子どもたちの学力向上を支えたのは、「マーメー」と言われても気にしないような図太さの育成ではなく、それこそ「マーメー」に、学力向上を目的に、2009年度から秋田県との教員派遣交流事業を開始し、教員らが何度も何度も秋田県に足を運び、現場視察を重ね、時には秋田県の先生たちを沖縄県に招致して授業改善のアドバイスを求めることで、秋田県の学力を支える秘密を探ったからだろう。
そしてその一つが、学習に向かう姿勢、「立腰」なのだ。
軍隊か北朝鮮みたい
ただこの「立腰」。困ったことに一部の学校で、本来の目的から外れた使われ方が横行しつつあるようだ。
「指導力のない教師の、子どもをイスに縛り付ける呪文みたい」
そんな声が教員の間から上がっているのだ。
以下は本島中部小学校で勤務する現役教員の証言だ。この教員が、とある学校で行われた研究授業を見に行ったときのこと。中学年の算数の時間だった。子どもたちはたくさん見学に集まった教師たちを見て緊張した様子だったが、予鈴を合図に着席し、授業1分前には黙想を始めた。教師がセットしたアラームが鳴ると日直が「立腰」の号令をかけ、授業開始。ここまでは見慣れた学校の風景だ。
違和感を感じ始めたのは、授業が始まって約15分後のこと。
「子どもたち全員がずっと、『立腰』の姿勢を崩さないんですよ。授業中ずっと、後ろに手を組んだままなんです。『立腰』でなくなるのは、手を上げるときと、ノートを取るときだけ。軍隊か北朝鮮みたいでした」
教員はため息交じりにそうつぶやいた。
児童の中には何度も「姿勢が崩れてる」と小声で注意を受ける子もいて、「最後は疲れた表情でかわいそうだった」という。
また別の女子児童は、後ろ手に組んだままの姿勢がつらいのか苦悶の表情を浮かべていた。
「姿勢を崩した方が絶対に集中できたはず。大人でも45分間立腰できるわけがないのに。授業というより訓練みたい。子どもが一番分かってるんじゃないですか。これ何のためにやってるんだろう、って」
教師の授業力不足を「立腰」で補えるのか
目的を見失った「立腰」にあきれた同教員だったが、その後の反省会の様子にさらに驚かされたという。
「見学に来ていた一人が『なぜ立腰の姿勢で授業をさせているのか』と、授業者である担任に質問したんです。担任は『授業中にノートに落書きしたり、何かをいじったりしないためです。普段からそう指導している』と答えた。子どもが集中力を欠くのは教師の授業力が低いから。それなのに『立腰』が基本姿勢だと子どもたちに指導して、ずっと手を後ろに縛られたような格好にするなんてありえない。ただ何よりも驚いたのは、その答えに感心して『明日から私も取り入れます』と言った先生たちが多かったこと」
もちろん、「立腰」を基本姿勢と指導している教師が多いというわけではない。むしろそんな理解をしているのはごく一部の教員に限った話だろう。それでも、現在の「立腰」のあり方に、「これでは本末転倒ではないか」と疑問を抱く現場教師の以下の意見には、はっとさせられる教師も少なくないはずだ。
「学校には社会で通用しない、特殊な環境があります。教師は、子どもたちが社会に出たときに生き抜く力を育てることが求められているはずですが、実際には教師にとって都合のいい指導に変わっていることが多い」