命を飼う覚悟、ありますか
- 2020/7/16
- 社会
『命を飼う覚悟、ありますか』
こちらは皆さんも一度は聞いたことがあるだろうAC ジャパンのCMのセリフだ。なかなかメッセージ性の強いセリフにハッとさせられた人も多いだろう。そう、『命を飼う』という表現は、ペットも人間と同じ一つの命であるとして明確に捉えさせ、それだけの覚悟持ってペットを飼えますか?ということである。
ペットを飼うメリットは大きい、癒し、思い出の共有、家族間での会話。子供に至っては動物を育てる、面倒を見るという貴重な経験にもなる。
しかし時に人間の勝手な都合によって、飼い始める際には家族の一員として喜んで迎え入れるが、いざ時間が経つと、構っている時間がない、家族旅行に行けない、大きくなりすぎ、飽きた、などと理由をつけて手放そうとしたりもする。
貰い手が見つからない、引き受けてくれる頼り手がいないと無責任にも山に捨ててしまう、どこかに置き去りにしてきてしまう。そういった事例が今でも少なからず見受けられるというのだ。
捨てられた犬が野生で子供を産み、それが野犬として成長し危険を伴ったり、狂犬病を発症するリスクも伴う。県内での狂犬病に対するペットの予防注射意識はまだまだ低いとも聞く。
そのような沖縄のペット事情、動物愛護という観点から話を伺うべく南城市大里にある『沖縄県動物愛護管理センター』を訪れた。
沖縄県動物愛護管理センターとは
沖縄県動物愛護管理センターとは、沖縄県の環境部-自然保護科内の出先機関であり、獣医師の資格を持つ役職員を筆頭に27名(平成31年4月1日現在)のスタッフで構成されている。
主な業務としては、
動物愛護思想の普及啓発業務:生命の尊重・友愛の啓蒙。正しい動物の飼い方指導、危害の防止、終生飼養啓発、繁殖を希望しない飼養者への不妊・去勢手術の指導・助言。犬・猫の譲渡及び譲渡講習会の実施。負傷動物の収容、応急処置及び飼養管理。動物愛護週間(例年9月20日から9月26日)と動物慰霊祭の実施など。
動物の管理指導業務:捕獲または保護により収容された犬・猫の管理、返還、譲渡及び処分。関係機関との徘徊犬合同捕獲、苦情の受理及びその処理。咬傷犬の狂犬病鑑定など。
動物取扱業、特定動物飼養・保管監視業務:ペットショップなどにおける動物の販売、保管、貸出、展示などの許可、監視業務。
などである。(平成25年に中核都市となった那覇市、及び離島を除く沖縄県全域)
話を伺ったのは、副所長である宮平誠人氏、主任技師の多田雪宏氏。施設の設備内容から事業概要まで丁寧に教えてくれた。
彼らは1日でも早く動物の捕獲・殺処分が無くなることを願っており、ペットと生きていくことの責任性を広く周知していきたいとの思いなのである。
殺処分は年々減少もゼロにならず
近年では行政による啓蒙活動の効果もあり、市民のペットに対する意識の改善が大きく図られるようになっている。さらにCM効果や法改正もあって、動物の捕獲・保護数、殺処分数は年々低下の一途をたどってはいる。
過去5年間の沖縄県における実数値を見ても明らかだ。
平成26年には、迷い犬や野良犬などの所有者不明引取犬数が1,639匹、飼い主からの引き取り192匹(原則拒否)。そのうち飼い主へ戻された数が297匹、譲渡された数 350匹、終末処分数 1,200匹(負傷16)。
こちらを平成30年で見てみると、所有者不明引取犬数が776匹、飼い主からの引き取り72匹。そのうち飼い主へ戻された数が271匹、譲渡された数 606匹、終末処分数 141匹にまで引き下げられている。(負傷123)
20数年前の平成10年に至っては終末処分数 13,202匹にも上っていた。
猫に関しては、平成26年の所有者不明引取数及び飼い主からの引き取りが2,446匹。そのうち飼い主へ戻された数が19匹、譲渡された数 101匹、終末処分数 2,370匹。(負傷44)
平成30年で見てみると、所有者不明引取数及び飼い主からの引き取りが522匹。そのうち飼い主へ戻された数が6匹、譲渡された数 192匹、終末処分数 602匹となっている。(負傷271)
猫に関しては、引き取りの時点で怪我や負傷で弱ってしまい、そのまま死亡してしまう例も多いという。
このような数字の減少については、上記に挙げた国のPR、CMなどの効果も一定数見られるが、人々による里親制度への関心、ボランティアによる積極的な譲渡会などがより大きく関わっているだろうと宮平さんは語る。
譲渡制度に対する意識
動物愛護管理センターで捕獲・保護した犬猫は、その各々の適性を判断してではあるが、施設内にてワクチンの接種、避妊・去勢手術までもを施す。さらには、その後飼養ペットとして人間とうまく調和していけるよう訓練なども行っているのだ。
ただし、闇雲に里親希望としてペットが欲しい!の声のままに譲渡されることはなく、譲渡希望者は事前の適性審査、譲渡先環境調査、譲渡講習会を受けて初めて譲渡対象者となり、譲渡が成立するのである。
譲渡後には職員による家庭訪問も行う。万が一虐待などの様子が見られる場合には犬猫の取り上げも行うという。ここにもセンターから譲渡希望者に対して『命を飼う』ということへの『重さ』を伝える積極性が見て取れる。
命の重さを知る
そしてその『重さ』は、施設現場を見学すると更にズシリと重くのし掛かってくる。
今日でこそ、動物の捕獲・保護数はだいぶ少なくなっているものの、過去においては施設内に入りきれない数の捕獲・保護犬猫で溢れ、それでも次々に送られてくる事態に止む無く日々一定数の殺処分を行わざるを得ない状態であったと。
その無機質な鉄格子に囲われた空間の中で、鳴きわめく動物たちが訴えているかの姿が思い浮かぶようで何とも言えない気持ちであった。
その時々の甘い考えでペットとして飼われ、都合が悪くなると捨てられてしまった彼らの想いとは。
施設敷地内には『獣魂碑』という碑も建てられ、弔われた動物たちの供養が行われている。
沖縄という特殊性が生み出すケースも
沖縄ならではの要因も無くはないという。今でこそ那覇のような都市部で見かけることは少なくはなっているものの、県内の集落各地では未だ犬は番犬であるという感覚で屋外、放し飼いにしているケースもある。ここの意識もじょじょに変えていく必要があると伝える。
また、屋外での飼育をすることにより、県外からの移住者にとっては騒音苦情の対象にもなったり、危害を与えないかの危機感を持たれる苦情にも繋がっていると。そこから飼い主も困り果て、遂には飼養を放棄したいという声に繋がったりもしているという。
このような時代的な変化も踏まえ、近年では事前の譲渡希望者の適正審査や譲渡先飼育環境調査などが重要になってきていると話す。自分では飼えると思っていても、時代の変化がそれを阻むことがあるのだと。
インターネット周知による認識の向上
近年では、インターネットの普及によって、迷い犬・迷い猫の返還率(飼い主への返還)、譲渡率も高まっているという。
動物愛護管理センターのウェブサイトは、見やすいだけでなく操作もしやすく、とても使い勝手がいいサイトになっている。
もしも自分の犬・猫が迷子になった場合には、センターのウェブサイトにアクセスし、『行方不明』のページへその子の詳しい情報や写真をアップすることによって世間に広く周知することができる。
また、仮に誰かによって拾われてセンターに預けられた場合でも、センターが迷い犬・猫情報として随時アップしてくれているので、返還される可能性が高まる。
逆にもし、あなたが首輪の付いた迷い犬や猫などを拾った場合には、警察、自治体、または動物愛護センターに連絡をし、引き取ってもらう。
もしくは、しばらくご自身の家庭内で保護などが可能であれば、必要な情報をセンターのウェブサイト内『迷い込み保護』フォームへ記入し、飼い主が現れるのを待つ事も出来る。
現在収容されている犬猫や、譲渡待ちの保護犬・猫などの情報も随時更新されているので、譲渡希望される方もぜひサイトをチェックをし、譲渡希望を出した上で、適性検査や譲渡講習を受けてから彼ら彼女らの里親となってあげてください。
そして今現在ペットを飼われているあなたへ、
ワンちゃん、ネコちゃんはこう訴えています。
『あなたと過ごすこの時間は一生忘れられません。最後の時まで、わたしと一緒にいてください』と。
今一度大事なペットを抱き抱えて、目を見つめ合わせてみてください。
沖縄県動物愛護管理センター
窓口受付時間: 平日 午前8時30分〜11時30分 / 午後1時〜4時30分
沖縄県南城市大里字大里2000番地
電話: 098-945-3043 Fax: 098-945-0224