快進撃の裏でFC琉球の頭痛のタネ 新スタジアムはいつできるのか
- 2021/4/23
- 政治
4月21日の第9節でFC町田ゼルビアとアウェイで戦ったサッカーJ2リーグのFC琉球。3対0と敗れたが、これまでの戦績は7勝1敗1分で勝ち点は22。J2での順位はアルビレックス新潟に次いで2位と善戦中だ。仮にこのまま2位圏内に留まりシーズンを終えると、夢のJ1に自動昇格ということになる。しかし、FC琉球の好調は「頭の痛い問題」をも浮き彫りにするという。一体、どういうことなのか。
「J1に昇格するためには、J2リーグで2位までに入り自動昇格するか、6位までに入ってJ1参入プレーオフに参加して優勝する必要があります。自動昇格はもちろんのことですが、このプレーオフに参加するためにJ1ライセンスが付与されている必要がある。ところが、FC琉球はすでに条件付きでJ1ライセンスを付与されているとはいえ、この条件をクリアできるメドが立っていないのです」(スポーツライター)
J1ライセンスは条件付き
コロナ禍により去年に続き、今年もJ1参入プレーオフは開催されず、自動昇格のみの運用になったが、FC琉球は昇格に備えJ1ライセンスが付与されたことを去年9月に公表している。ただ、そのリリースには「FC琉球が2021シーズンに使用を予定しているスタジアムである『タピック県総ひやごんスタジアム』は施設基準のうち屋根の基準を充足しておらず、当該基準を充足するための計画、もしくは構想を2020年11月30日までにJリーグクラブライセンス事務局に書面で提出すること」と付記されている。
Jリーグでは、クラブチームの質の維持のため、ホームスタジアムの施設基準や財務基準など56項目にわたって審査基準をクリアしなければ、ライセンスが付与されないことになっている。例えば、「スタジアムの入場可能人員が1万5000人以上であること」「3期連続で最終赤字を計上していないことおよび債務超過になっていないこと」などの基準だ。
FC琉球は、このうち「達成できていない場合、処分(条件)を科された上でライセンスが付与される」という屋根の基準、すなわち「スタジアム観客席の3分の1以上を覆う屋根を備えること」という施設基準を満たしておらず、これをクリアするための計画の提出を求められたわけだ。
2018年にはスタジアムのキャパシティーがJ1基準を満たしていないとして、町田ゼルビアがプレーオフに参加できずに涙をのんだ。これを受け、Jリーグは基準を緩和して例外規定を設け、スタジアムについては「すでに着工していて3年以内に完成予定であること」「理想のスタジアムであれば完成まで5年間の猶予期間を設ける」といったルールが定められた。ちなみに、「理想のスタジアム」とは、アクセスがよく、屋根がついていて、ビジネスラウンジやスカイボックスなどが設けられているスタジアムだ。
FC琉球は、こうした例外規定を活用してJ1ライセンスの申請を行っている。FC琉球は取材に対して、「タピックスで屋根をつけるのは現実的ではないし、その計画もない。去年、Jリーグにライセンスを受けるために提出したのは、沖縄県が公表している奥武山公園のJ1規格スタジアムの計画です」と話す。ところが、このJ1規格のスタジアムが完成するメドが立っていないというのだ。
政治がJ1昇格に影を差す
那覇市中心部にある奥武山公園でJ1規格のスタジアム構想が持ち上がったのは、10年前の2011年。当時、Jリーグへの準加盟申請をしていたFC琉球の動きに呼応して、那覇市の翁長雄志市長(当時)は奥武山公園の陸上競技場をサッカースタジアムと兼用できるように70~80億円をかけて改修する構想を打ち上げた。
このときの構想では、防衛省の支援を受けながら2014年度に着工、2017年度に完成となっていた。翁長市長には、同じ奥武山公園に2010年に完成した市営野球場(現セルラースタジアム那覇)の建設にあたり、総事業費68億円のうち4分の3を防衛省からの補助で賄った実績もあった。それに、Jリーグの加盟には、1万人が収容できるスタジアムが必要だが、県内にはそうした施設がなかった。当時の報道を見ると、北澤俊美防衛相(当時)も前向きな姿勢を示していたようだ。
仲井眞県政下の沖縄県でも同年、沖縄市の県総合運動公園陸上競技場(現タピック県総ひごやんスタジアム)を1万人収容規模に改修する計画を打ち出す。奥武山公園のスタジアムが完成するまでの暫定的なスタジアムとして計画され、実際にFC琉球がJ3リーグ参加を果たした2014年に着工、翌年には完成して同チームの本拠地となっている。
一方、那覇市の奥武山公園のスタジアム計画は、2013年に陸上競技場とサッカーの兼用スタジアムからサッカー専用スタジアムに計画が変更された。さらに、翌年には沖縄県政は仲井眞知事から翁長知事に変わり、スタジアム計画は沖縄県主導で進められることになる。
FC琉球に初めてJ2ライセンスが交付された2017年、沖縄県はJ1規格スタジアムの整備基本計画をまとめ、公表している。スタジアムは延べ床面積4万7500平方メートルで地上6階建て。サッカー専用スタジアムで、収容人員は2万人。もちろん客席をすっぽり覆う屋根付きで、ビジネスラウンジ、スカイボックスも設置される。Jリーグが「完成まで5年間の猶予期間を設ける」とする「理想のスタジアム」そのものだ。総事業費の218億円には沖縄振興特別推進交付金(一括交付金)をあて、開業は2023年度を予定していた。
この計画をもとに、FC琉球はJ1ライセンスの交付を受けているわけだが、いまの一括交付金制度が期限を迎える2021年度に入っても着工のメドすらたっていない。沖縄県の担当者が言う。
「民間資本の導入や機能など着々と検討を進め、県民アンケートなども踏まえて整備の条件や範囲を練っています。ただ、法的課題と財源で詰めなければならない要素が残っている」(県スポーツ振興課)
法的課題とは、都市公園法上の問題だ。那覇市が国土交通省と協議を行い住居系となっている敷地の用途変更も必要だ。最大の問題は財源。今月22日、沖縄県は一括交付金制度を2022年以降も継続するよう政府に要望することを決めたというが、交付金とセットとなる沖縄県の振興計画が来年度以降どのような形になるか不透明感が拭えず、交付金の先行きは現時点で見通せない。
「スタジアムの整備も次の振興計画を見据えて進め、2023年度開業の旗も降ろしていない」(同課)ということだが、政府と沖縄県の関係がかつてないほど停滞する中で、スタジアム計画の雲行きも怪しくなっている。
J1昇格も視野に入ったFC琉球だが、その実現には政治が大きな影を落としていると言わざるを得ない。