常設展へ行こう 学芸員が語る魅力 〜県立博物館・美術館 美術工芸部門編(1)
- 2021/1/23
- 社会
最後に博物館に行ったのはいつですか?
博物館といえば、年間に何度か入れ替わる県内外や国内外の様々な展示品に出会える企画展で、未知の文化や歴史などに触れて学ぶことができるという印象が強い。もちろん、それも博物館のとても大きくて重要な役割だ。一方で、博物館には基本的に期限を設けずに、いつでもみることができる収蔵品で構成された「常設展」もある。
沖縄県立博物館・美術館の常設展は、1度だけでは全てをちゃんと見てまわれない程に内容が豊富だ。収蔵資料は94,000件。展示の物量自体が多いのはもちろんのこと、1つ1つの展示物や、歴史・文化の流れも考えながら観賞すると、膨大な情報の波にのまれて、驚くほど時間が経過していく。
常設展に向かう入り口は、足元にサンゴ礁を見ながら青と緑の色彩を浴びる。港川人とその時代の動物たちの化石が出迎え、沖縄の自然や文化、人々の暮らしの歴史をたどる旅が始まる。展示室は、沖縄を歴史的な視点で大きく見ていく総合展示室と、それを取り囲むように自然史、考古、美術工芸、歴史、民俗の5つの部門展示室が設けられている。この5つの分野ごとに担当の学芸員が配置され、それぞれの専門知識を発揮しながら日々研究し、その成果を展示や企画に反映させている。
このシリーズでは、各分野の学芸員に話を聞いて常設展の魅力の一端を紹介する。コロナ禍収まらぬ中、自分の生まれ育った地の歴史を改めて見つめ直すのも一興ではないだろうか。第1回目は、美術工芸を担当する與那嶺一子さんに話を聞いた。
歴史的・美学的な側面を照らす
美術工芸部門で扱うのは紅型や織物、書芸、彫刻、絵画、漆器などの美術工芸品。部門展示室では、収蔵品を中心に年3~4回ほどテーマを決めて展示品を入れ替える。
「たくさんの工芸品があるけれど、その1つ1つに向き合って歴史的・美学的な側面から照らしていくのが学芸員の仕事だと思っています」。与那嶺さんは学芸員を務めて約30年で、専門は織物や染色品。博物館の建物が首里にあった頃からのベテランだ。柔らかく優しい口調には、積み重ねてきた経験と知識に基づく知性の芯が通る。
担当分野を案内しながら、総合展示室中央付近の大小様々な種類の鐘が展示されている場所では、「沖縄の美術品は先の戦争の影響が大きくて、古い時代のものになると石と鐘しか残っていない。紙や木製のものはかなりの数が焼失してしまった」と説明する。「そうしたことも踏まえて、イメージしにくいものは模型や復元したレプリカで補えるように展示を構成しています」