沖縄観光を名実ともに「基幹産業」にするためには 観光人材育成シンポジウム

 

 新型コロナウイルス感染症で打撃を受けた沖縄観光の回復や、サービス提供のための人材育成・確保などをテーマに、沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)とOTSサービス経営研究所が沖縄観光人材育成シンポジウム「持続可能な新しい沖縄観光の実現」を10月14日に開催した。
 元観光庁長官で東武トップツアーズ会長の久保成人氏、OCVB会長の下地芳郎氏、そして沖縄ツーリスト株式会社会長の東良和氏が登壇。現在と今後の沖縄観光の課題について意見を交わした。

「総合産業」として成立させる柔軟性が必要

東武トップツアーズ会長の久保成人氏

 シンポジウムに先立ってキーノートスピーチ(基調講演)で久保氏は、シンポジウムでの議論の材料として、現在の沖縄観光の課題について①観光産業を名実ともに「基幹産業」に位置づける必要性、②量から質への転換をどう乗り越えるか、③車が無いと楽しめないというイメージを中身ともども変えていくこと、という3点を挙げた。

 ①については、基幹産業として観光産業を成り立たせるためには「第一次産業やIT関係も含めて、多分野と横断的に関わることで『総合産業』として色々なものを積極的に受け入れていく柔軟性が必要」と強調。同時に人材育成と確保を見据えた教育的投資も行うことで、基幹産業の“実”が伴うことを示唆した。

 「10年以上前から何度も言われてきていますが」と前置きし、話した観光サービスの「量から質への転換」については、コロナ禍を契機に安全性を捉え直すことについて言及。インバウンド再開を踏まえた上で、国際基準に適合させたハイクオリティーな独自基準の感染防止制度を構築することを質の1つの基準として設定することを提案した。

 ③の移動手段の問題については、「沖縄Maas(Mobility as a Service)」という形でバス・タクシーの活用も含めた公共交通の利用促進を「全県的に取り組む必要があります」と述べ、「車がなくても旅行が楽しめる沖縄、というイメージを構築することも重要です」と強調した。

シーズンを超えた集客の切り口が必要

OCVB会長の下地芳郎氏

 パネリスト3者が登壇したシンポジウムでは、沖縄観光を巡る数多の議題を「需要の平準化」「人材育成・確保」「インバウンドの再開」「観光産業界と行政との連携」という4つのテーマで切り分けて議論した。

 需要の平準化についての議論では、下地氏が「沖縄観光で夏場を1つの山(ピーク)として続けてきたことで様々な弊害が出てきました」と指摘。冬場はプロ野球キャンプや修学旅行などで誘客を図りつつ、数字で見れば増加傾向にあるものの「全体の構造自体は変わっていません」とした。これを受け、東氏は「プロ野球キャンプは需要平準化の1つの成功例だと思います。なぜ現在のように定着したのかを今一度分析してみることも必要でしょう」と付け加えた。

 久保氏は「テーマの作り方でシーズンを超えた集客ができるのではないかと思います」と話し、切り口の1つとして「沖縄の伝統的なものから現代的なものまで、様々なバリエーションがある『音楽フェス』なんかも面白いと思います」と提案した。

沖縄ツーリスト株式会社会長の東良和氏

重要性と現実とのギャップをどう埋めるのか

 続く人材育成・確保という喫緊の課題については久保氏が「一朝一夕には難しいが、やはり基幹産業に相応しい処遇を整えていくことが非常に重要だと思います」と話した。その上で、DX化が不可避の中、「理工系の人材を観光業界に引き入れることが合理化につながる」と強調。コロナ禍で多くの人材を手放してしまったが、そうした危機的状況の只中でも「人材を支援する策をきちんと考えて存続させる形を当局が考える必要がある」と力説した。

 加えて久保氏は「観光産業の重要さをもっと数字でアピールすべきです」と述べ、産業としての重要性をきちんと提示するためのデータをストックして示していくことの大切さも語った。東氏は「本当の意味で『基幹産業』と言えるかどうかについては、県民全体に理解が広がっているとは言いがたいですね」とコメントした。

「観光産業について『重要性は分かるが、自分が働きたいかというとそうではない』というアンケート結果が出ていて、こうした状況は沖縄観光がずっと抱えてきたテーマです」と下地氏。産業としての必要性・重要性と、業務実態などの現実との間に差があることを指摘し「個人や企業も含めて『人を大事にする』ということを改めて沖縄全体で考えて、観光関係者への理解を示す必要があります」と述べた。

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